自分の道は、自分で選ぶ。TAMCURRY田村ゆかりが中野でつくる、スパイスカレーと小さなカルチャー
2026.04.25
Relay From nana-marの関香さんからバトンを受け取ったのは、中野市にスパイスカレーの香りを届ける「TAMCURRY」の田村ゆかりさんです。
中野市の街中にあるスパイスカレーのお店、TAMCURRY。店を切り盛りするのは、田村ゆかりさんです。カレーを作ることから接客、経営に関わる細かな仕事まで、すべて一人で行っています。話している印象は、控えめで、穏やか。けれど、その言葉の奥には、自分の人生を自分で選び取ってきた人の静かな強さがあります。会社員として働いた時期。東京でスパイスカレーに出会い、間借り営業やイベント出店を重ねた時間。そして、地元・中野に戻って自分の店を開くという選択。
「環境は、自分でつくるもの」
そう考えるようになってから、田村さんの人生の選び方は変わっていきました。TAMCURRYというお店に込められた思いと、スパイスカレーを通じて中野に生まれてほしい“面白さ”について伺いました。
会社員ではない生き方を考えた先に、カレーがあった
Q. TAMCURRYを始めたきっかけを教えてください。
A. もともとカレーが好きで、カレー屋さんでアルバイトをしたことがきっかけです。最初は食べるのが好きだったんですけど、だんだん作ることにも興味が出てきました。東京にいた時に、スパイスカレーの作り方を教えてもらう機会があって、そこから自分のお店をやりたいと思うようになりました。ただ、最初からすぐにお店を出したわけではありません。
一度、普通に会社員として働いていた時期もあります。でも、もともと会社員は自分に合わないんじゃないかという感覚がありました。とはいえ、やってみないと分からないので、一度経験してみたんです。実際に働いてみると、やっぱりモヤモヤがありました。これからどうやって生きていこうかと考えた時に、フリーターを続けるわけにもいかない。じゃあ自営業なのかなと。何をやるかを考えた時に、自分はカレーが好きだったので、カレーを作ってお店をやれたら一番いいなと思いました。
東京ではカレー屋さんで経験を積んだり、知り合いのカフェを間借りして営業したり、イベントに出店したりしていました。自分のお店を持つ前に、少しずつ経験する時間をつくっていった感じです。東京にいる中で、ニュースを通して地元のことを知る機会があったのですが、地元の話題に触れるならできれば明るいものであってほしい、そう感じる場面がありました。自分が何かをやることで、少しでも前向きな形で中野のことが知られるきっかけになればいい、その一端でも自分がなれれば。
東京でやる選択肢もありましたが、そう思ったこともあって、戻ってきました。自分がお店をやることで、中野を少しでも盛り上げるきっかけになればと思っています。戻ってきたのが一昨年で、物件を探して、去年オープンしました。

東京で間借りしていた時のカフェ。ご本人提供。
「環境は自分でつくるもの」と思えたら、少し楽になった
Q. これまでの中で、大変だった時期や、考え方が変わった出来事はありますか?
A. 会社員時代は、精神的にしんどかったです。でも、カレー屋さんの方に舵を切ってからは、大変なことはもちろんありましたけど、自分で決めたことなので、ポジティブに頑張れていたと思います。大きかったのは、「環境は自分でつくるものだ」と考えるようになったことです。
もちろん、生まれた場所とか、そこにいる人とか、与えられる環境もあると思います。仕事もそうかもしれません。でも最終的には、自分が選んだ結果なんだと思うようになりました。人生の選択をする時、周りの人にアドバイスをもらうこともあります。でも、最後に選んだものは自分の決めた道です。だから、自分の責任。
そう考えたら、少し楽になりました。自分の責任なんだから、じゃあ何をしたいのか。自分が納得できるかどうかを優先しようと思えるようになりました。例えば会社を辞める時も、周りの人や親に話すことになります。その時に、自分が納得できていないと、ちゃんと伝えるのは難しい。でも自分が納得していれば、言葉の重みが変わると思うんです。
その考え方になってから、人生の選び方が変わった気がします。学生時代を知っている地元の友達からは、お店をオープンした時に驚かれました。そういうタイプには見えなかったんだと思います。

店舗での取材の一幕。
誠実な仕事をしたい
Q. 仕事をする上で、大切にしていることは何ですか?
A. まずは、誠実な仕事をしたいと思っています。どんな仕事でも、相手がいます。商品を買ってくれる人がいる。だから、だますようなことはしたくないです。信頼してもらえる仕事をしたいですし、「この人なら安心できる」と思ってもらえるように働きたいと思っています。
もしかしたら、経営者としては不向きな部分もあるかもしれません。お金、お金というよりは、お客さんに満足してもらえるかどうかに重きを置いているので。もちろん、お店を経営している以上、黒字は目指します。でも、お客さんに満足してもらいたいという気持ちは、忘れたくないです。
スパイスカレーは、食べ物でありカルチャーでもある
Q. TAMCURRYの強みは、どんなところにあると思いますか?
A. やっぱり、スパイスカレーだと思います。カレー屋さんはありますが、スパイスカレーのお店はこの地域ではまだ多くありません。東京にいた時、スパイスカレーのムーブメントを見ていて、こんなに人を引き付ける力があるんだと感じていました。
スパイスカレーは、食べ物でありながらカルチャーでもあると思っています。音楽や映画が好きな人にも好まれることが多くて、そういう広がり方も面白いなと感じています。インドカレーをベースにしながら、日本の中で発展してきたもので、再現型もあれば創作的なものもある。その中で個性を出せるのが、スパイスカレーの魅力だと思っています。

音楽が好きということで、フィッシュマンズのコピーバンドをしていたことも。当時のお写真。
中野の中に、小さな“面白い”を増やしていく
Q. 地元・中野で創業されたところですが、今後の展望についてお聞かせください。
A. こっちに戻ってきた時、地元の人が「中野は何もない」と言っているのをよく聞きました。でも私は、そんなことはないと思っています。面白いお店も人もいる。ただ、まだうまく見えていないだけなのかなと感じています。まずは「中野にスパイスカレー屋さんがあるじゃん」と思ってもらえるとか、中野の面白さの一端を担えたらいいなと思っています。
今は一人でお店を回していることもあり、日々の営業で手一杯な部分もありますが、これから少しずつ広げていきたいことはあります。音楽イベントにフードとして関わったり、物販など、お店の外に出ていく形にも挑戦していきたいです。そうして横のつながりも大事にしていきたい。
中野にはすでに面白い人や場所があるので、それが自然につながっていくような動きができたらいいなと。まずは自分のお店をしっかり続けること。その上で、できる範囲で少しずつ広げていきたいと思っています。

TAMCARRYのロゴ。イラストは、東京で間借りしていたカフェオーナーの旦那さん(デザイナー)に描いてもらったもの。
編集後記
田村さんの話を聞いていて印象的だったのは、その言葉の静かさでした。大きなことを語るわけではないけれど、自分で選び、自分で責任を持つという軸が一貫している。その積み重ねが、今のTAMCURRYにつながっているのだと感じます。スパイスカレーという料理を通して表現されているのは、派手さではなく、田村さん自身の「納得して選ぶ」という姿勢なのかもしれません。
We Can
TAMCURRYの強みは、スパイスカレーを通じて、食とカルチャーの面白さを届けられることです。
スパイスカレーは、インドカレーを土台にしながら、日本の作り手たちによって広がってきた自由度の高い食文化でもあります。
現地の味に近いもの、創作性のあるもの、スパイスカレー初心者にも食べやすいもの。その幅の中で、自分らしい一皿を表現できることが魅力です。
また、TAMCURRYは一人で運営する小さなお店だからこそ、作り手の思いや空気感がそのまま伝わる場所でもあります。
中野におけるスパイスカレーの入口として、地域に新しい食の楽しみ方を届けることができます。
We Want
一人でお店を運営しているため、イベント出店や物販、音楽イベントとの連携など、やりたいことがあっても広げきれない部分があります。
地域で面白いことをしている人、お店同士で何かを仕掛けたい人、音楽やカルチャーに関わる人たちとつながりながら、TAMCURRYとしてできることを少しずつ広げていきたいです。
中野の中にある面白いお店や人が、もっと自然につながっていくようなきっかけを作っていけたらと思っています。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
はちみつとネコ 有賀 敬晃さん
商工会議所の創業セミナーをきっかけに仲良くなった、自営業の仲間の一人です。
喫茶あんき 樋口 知生さん
同じく創業セミナーきっかけ、同じ自営業の仲間の一人です。