伝統の左官技術を未来へ繋ぐ。萩原左官が描く、手仕事と地域への想い

2026.04.15

萩原左官 萩原康氏。道具の倉庫にて。膨大な種類の道具が整然と収納されている。

Relay From 株式会社こころね 上田泰貴さん

北信地域に根ざし、伝統的な左官技術を受け継ぐ「萩原左官」。今回ご紹介するのは、父と同じ左官の道へと進み、経験を積んだのちに独立、日々の仕事に真摯に向き合う若き職人、萩原康さんです。幼い頃から職人の世界が身近にあったという萩原さんは、その手で壁を塗り、タイルを貼り、住まいの表情を創り上げています。一方で、職人不足という現代的な課題にも直面しながら、地域のものづくりを支える手仕事の未来をどのように見据えているのでしょうか。

幼い頃から身近にあった「ものづくりの世界」

Q. 萩原さんが左官の道に進まれたきっかけを教えてください。

A. 実家が左官業を営んでおり、幼い頃から建築が当たり前にある環境で育ちました。遊ぶ道具も父の仕事道具だったりして、自然と「ものづくり」が好きになったんです。兄が先行して家業を継いでおり、父と楽しそうに仕事の話をしている姿を見て、さらに影響を受けました。中学校の頃から現場の手伝いをしていたので、家業に入ることに全く違和感はありませんでしたね。

かつて父が使っていたコテ、萩原さんが受け継ぎ今も大切に扱っている。最初は左手に持っているコテのサイズも使い続けると右手のコテのサイズにまですり減るそう。

「効率よりも面白さ」を追求する、萩原流の仕事哲学

Q. 日々のお仕事で大切にされている「こだわり」や「ルール」はありますか?

A. 最近でいうと、室内の漆喰壁を塗る機会がありました。お客さんの好みに合わせて細かな模様のパターンを決めたりして。極力細かいところまで。場合によっては奇抜なデザインの要望に応えることもあります。そういった要望は時間も手間もかかるので、普通の職人さんであれば嫌がるところかもしれません。ですが私の場合は、むしろ楽しく取り組んでいます。効率だけを追求するのではなく、技術が要求される部分も手間を惜しまず時間をかける。これは、父に早くしろ早くしろと言われるのではなくて、腕が鳴る部分には時間を惜しまずにやらせてもらってきた。そうした影響かもしれません。独立した今でも、同じようにやりたいという気持ちがあります。

職人不足という「壁」と、仲間との絆

Q. お仕事をしていく中で、これまでに直面した「壁」や「挫折」について教えていただけますか?

A. やはり、職人さんの数が圧倒的に少ないことです。需要はあっても、絶対数が減っているため、みんな忙しくて手伝いをお願いできるタイミングがなかなかありません。最近は昔と比べ気温も上がっています。例えば、2階建ての外壁を一日で仕上げようとすると、乾く前にすべてを終えることを考えれば10人近くの職人が必要になることもあります。知り合いの知り合いまでツテを使ってかき集めてもらうなど、同業の仲間とのつながりがあって初めて成立するケースもあります。冬場は仕事が少ない時期もありますから、人を雇うというのも難しい側面がある。そうした中でお互いの都合を融通し合いながら、なんとかこなしているのが現状です。

施工中の一枚。

Q. そのような課題に対して、どのように乗り越えてこられたのでしょうか?

A. まさに、同業の仲間たちとの「つながり」を大切にしてきたことが大きいです。山ノ内や中野、野沢温泉村など、北信地域には信頼できる仲間がいます。本当に知らない人にお願いするのは不安ですが、彼らとは長年の付き合いの中で腕や実力を信用し合っています。それぞれの仕事のやり方を理解し、柔軟に対応してくれる人であるほどに助かるんです。JCに入っていたことも、独立後に新しい仕事を得る上で、こうした地域のつながりを活かす良い機会になりました。

未来へ残したい、手仕事と伝統技術の価値

Q. 萩原さんがこの地域や、ご自身の仕事の未来について描いているビジョンがあれば教えてください。

A. 新しい若い職人さんに入ってきてもらい、誰もやらなくなっている技術を残していきたいと強く思っています。例えば「土壁」は、下地作りからできる職人がどんどん減っています。長期優良住宅の補助の対象にもならないため、新築で使われることはほとんどなく、現代の住宅では見られなくなってしまいました。しかし、自然素材でできた土壁は、原油問題などもなく、山一つあれば材料が揃う素晴らしい技術です。プロでなくても、素人さんが「土を塗ってみたい」という機会があれば、住宅でなくても小屋や物置など、一緒に取り組める場を作れたら嬉しいですね。昔からの技術は、一度失われると取り戻すのが非常に難しい。そうした価値ある手仕事や技術を、未来へつなぐ役割を担っていきたいです。

本人による意匠。使用する道具の種類も豊富にあり、表現の幅は広い。

編集後記

父から受け継ぎ、半分ほどの大きさになるまで使い込まれたコテ。その道具の小ささは、そのまま萩原さんが壁と向き合ってきた膨大な時間の証でした。「楽しめる部分には時間を惜しまない」と穏やかに笑う萩原さんですが、その指先が紡ぎ出すのは、効率化の波では決して再現できない一点ものの表情です。伝統を守ることは、単に形を模倣することではなく、萩原さんのように「楽しみながら塗り替えていく」ことなのかもしれません。

We Can

左官工事はもちろん、タイル、ブロック、石貼り、インターロッキング、お風呂の補修など、幅広く付随工事にも対応可能です。複数の事業者を探す手間なく、一貫してご依頼いただけます。

We Want

一人で動くことが多いので、複数の案件を同時にこなすことには限界があります。品質と信頼を保証できる、互いに融通を利かせ合える同業の仲間を求めています。

Next Relay

このバトンが、次へつながる。

有限会社北斗技研 金子雄三さん

JC時代の同期であり、奥様も同級生という旧知の仲です。

株式会社TONDOKORO 頓所陽生さん

仕事の関係やYEGで知り合いになり、リフォームのお仕事のご依頼も頂戴する仲です。