1kgの小鍋を、工場で同じ味にする。中高果実加工・酒井智正さん

2026.09.24

中高果実加工 酒井智正さん。ジャムを手に。

Relay From あずまやの木下さんからご紹介いただいたのは、中高果実加工株式会社の専務取締役、酒井智正さん。

酒井さんの仕事は、約1kgの小鍋から始まります。地域で採れた果実や、お客様から持ち込まれたアイデアをもとに、まず小さな鍋で試作する。味が決まったら、今度はその味と品質を工場で同じように再現できる形へ落とし込んでいきます。

レシピだけではありません。原料の状態、製造工程、見積り、商品仕様、衛生管理、お客様との調整まで。一つのアイデアを、継続して販売できる商品にするところまでが酒井さんの仕事です。

その仕事の先には、北信州で育てられた果実があります。形や大きさ、表面の傷などを理由に、生食では流通しにくい果実もある。けれど、味や安全性まで失われたわけではありません。そうした果実に、加工によって次の道をつくる。

料理の現場から食品加工の世界へ移り、酒井さんが積み重ねてきた仕事について伺いました。

1kgの小鍋を、工場の商品にする

Q. 中高果実加工では、どんなお仕事を担当していますか。

A. 主に商品開発、試作、見積り、工場への落とし込み、品質・衛生管理、お客様とのやり取りを担当しています。ここ5年くらいは、新しい案件については実務につながる部分の多くを担当するようになりました。

最初は、小鍋で1kgくらいの試作をします。そこで味をつくって、「これでいきましょう」となったとしても、そのまま工場で量を増やせば同じものができるわけではありません。鍋の大きさも違いますし、加熱の仕方も、原料の量も違います。小鍋でできた味を、工場でも同じ品質でつくれるようにする。そこを設計するのが、自分の仕事です。

中高果実加工は、もともと学校給食のパンに使うりんごの加工から始まった会社です。そこからジャムやソースなどへ商品が広がり、今は自社商品だけではなく、OEMの商品もつくらせていただいています。お客様から「こういう商品をつくれませんか」と相談を受けて、一緒にアイデアを出しながら形にしていくことも多いです。

大切なのは、試作でおいしいものができて終わりではなくて、それを工場で安定してつくり、お客様が継続して販売できる商品にすることだと思っています。

料理人時代に覚えた「同じ味を再現する」という仕事

Q. 今の商品づくりにつながっている経験はありますか。

A. 前職での経験は、かなりつながっていますね。調理師学校を卒業してから、自分でWDI JAPANへの入社を決めました。いろいろな飲食ブランドを展開している会社で、私はシーフードレストランの厨房で働いていました。東京で働けることもありましたし、それぞれのお店にこだわりがあるところにも惹かれました。

自分はアルバイト経験もほとんどなくて、社会人としては本当に何も知らない状態から入りました。でも、入社して1か月くらいの頃に、ランチメニューのレシピや仕込み、オペレーションを任せてもらったんです。自分が考えたものが実際の商品になった。それはすごく嬉しかったですね。

その後は、調理だけでなく、20人くらいのアルバイトスタッフの管理や教育も経験しました。そこで学んだのが、おいしいものをつくるだけではなく、誰がつくっても同じようにできる形にすることです。レシピを決める。仕込み方を決める。手順を決める。それを現場の人に伝えて、同じ商品を出せるようにする。今やっていることも、規模は違いますが、本質的にはかなり近いと思います。

23歳のときに父から「戻ってきてほしい」と声をかけられて、2015年に長野へ戻りました。今は、料理の現場で身につけた考え方を、食品工場の商品づくりで使っています。

23歳で戻り、仕事を積み重ねて役割をつくった

Q. 家業に入ってからは、すぐに今の仕事を任されたのでしょうか。

A. いや、最初から今のような形だったわけではありません。23歳で後継者として工場に入ったので、最初は難しい部分もありました。自分自身も若かったですし、品質に対する考え方や仕事の進め方で、社内の人とぶつかることもありました。当時は、自分が正しいと思ったことを強く言いすぎていたところもあったと思います。

でも、言葉だけで認めてもらおうとしてもうまくいかない。結局は仕事を覚えて、結果を積み重ねて、自分の役割をつくるしかありませんでした。小さな試作を工場で再現できるレシピにする。商品の仕様を明確にする。衛生基準を整える。お客様の希望を聞いて、現場へ正確に伝える。新しい案件を、一つずつ商品にしていく。そういう仕事を積み重ねてきました。

今は弟が副工場長をしています。自分が商品を設計して、弟や工場の社員が実際の製造へ落とし込んでくれる。そこで調整しながら、お客様へ安定した商品を届ける。自分一人で商品をつくっているわけではありません。設計する人と、実際に工場でつくる人が一緒になって、初めて商品になります。

完全に何かを乗り越えたという感覚でもないです。人への伝え方もそうですし、自分自身が安定して力を出すことも、今も勉強しているところです。

見た目で価値を終わらせず、加工で次につなぐ

Q. 果実加工の仕事で、大切にしていることは何ですか。

A. 農家さんとしては、やっぱり果物は生で売りたいと思うんです。それが一番だと思います。でも、形や大きさ、表面の傷、熟度だったり、収穫が一度に集中したりして、生食の流通には乗りにくい果実があります。

少し傷があるだけで、同じようにおいしいのに、商品としての価値が大きく下がってしまうこともある。農家さんが一年かけて育てた果実の価値が、見た目だけでゼロになるわけではありません。そこに、どうやってもう一度光を当てるか。それが、加工の仕事だと思っています。

ジャムやソース、コンポート、ドライフルーツなどに加工すれば、賞味期限を一年、一年半と延ばして、一年中その農産物を楽しめる商品にすることもできます。なので、自分たちの仕事を「食品ロスを減らす会社」とだけ捉えるよりも、「農産物の価値を、加工で次につなぐ会社」と考えています。

最近、その仕事を実感したのが、野沢温泉蒸留所さんとの商品づくりでした。ジンをつくるためにレモンの皮を使ったあと、中身のレモンが約500kg残ったんです。皮はジンに使える。でも、そのあとに残ったレモンをどうするか。そこで相談をいただきました。

しかも、原料が入ってくる直前の相談でした。こちらには大量に長期間保管できる冷蔵・冷凍設備がありませんから、時間をかけて考えている余裕もありません。すぐに試作を重ね・試行錯誤を繰り返し、1週間ほどで商品化まで進めました。できたのが「After the Peel(アフターザピール)」というレモンジャムです。

「皮をむいたあと」という、そのままの意味です。ただ甘いジャムにするのではなく、レモンの配合比率を高め、酸味とほのかな苦みを残し、糖度を上げすぎないように設計しました。パンにつけてもいいし、クラッカーやチーズと合わせてもいい。お酒と組み合わせる使い方もできます。

ジンの製造過程で外皮を使用され、外皮以外の内皮、ワタ、果汁を有効利用し無駄なく使い切る。どうすればより良く、お客様、消費者のみなさまに使ってもらえる商品になるかまで考える。そこまでできたことは、自分たちにとっても良い経験になりました。

この投稿をInstagramで見る

Nozawa Onsen Distillery 野沢温泉蒸留所(@nozawaonsendistillery)がシェアした投稿

生産者が、最初に相談できる加工会社へ

Q. これから、どんな会社にしていきたいですか。

A. 生食では売りにくい果実が出てから相談をいただくことも多いですが、できればもっと早い段階から相談してもらえる会社になりたいです。

例えば、収穫する前から、「この品種がこれくらい採れそうです」「この時期にこれくらいの量が出ます」という話をしてもらう。そうすれば、どんな商品にできるのか、誰に売るのかまで一緒に考えることができます。

果実が余ってから何とかするのではなく、その前から商品を設計できる。そういう形が理想です。商品は、つくれればいいわけではありません。一度つくって終わる商品ではなく、次の年も、その次の年も続けられるものにしたい。

ただし、何でも加工すればいいということではありません。腐敗しているもの、カビがあるもの、異臭があるものなど、安全性に問題のある原料は使えません。まず安全に加工できる原料なのかを確認する。その上で、その果実に合う商品を考える。食品を扱う以上、「もったいない」よりも安全が先にあります。その条件を守った上で、まだ使える農産物に次の価値をつくるのが、自分たちの仕事だと思っています。

生産者さんにもメリットがある。加工する自分たちにも無理がない。販売する方にも、きちんと売る理由がある。そのバランスが取れて初めて、継続できる商品になると思います。中高果実加工として、生産者の方が「この果実をどうしよう」と思ったときに、最初に相談してもらえる会社になりたいです。

見た目や規格だけで果実の価値を終わらせず、加工によって次の道をつくっていきたいと思っています。

編集後記

酒井さんの仕事を聞いていて印象的だったのは、約1kgの小鍋と、工場でつくる商品が一直線につながっていることでした。

試作がおいしくできるだけでは商品にならない。工場で再現できること、安全につくれること、販売する側が継続して扱えることまで考えて、初めて商品になる。そして、その技術があるからこそ、生食の規格には乗りにくい果実にも別の道をつくることができます。

「もったいないから使う」のではなく、「この果実なら、何にすればもう一度商品として価値を持てるのか」を考える。料理の現場から始まった「同じ味を再現する」という仕事が、今は北信州の果実を次の商品につなぐ仕事になっています。

関連リンク

We Can

果実を使った商品開発・OEM
約1kgからの商品試作
ジャム、ソース、コンポート、ドライフルーツなどの商品設計
小規模試作から工場製造への落とし込み
レシピ・製造仕様の設計
原料の状態や用途に応じた加工方法の相談
見積り・商品仕様・ラベル等を含めた商品化相談
品質・衛生管理を踏まえた食品製造
地域農産物を使った継続商品の開発相談

We Want

生食で販売することが難しくなった果実を、余ってから相談するだけではなく、できれば収穫前から一緒に考えていきたいです。
品種、数量、収穫時期などを事前に共有していただければ、その果実にどんな加工が向いているのか、どんな商品なら継続して販売できるのかまで検討できます。
収穫前から相談できる生産者の方、地域の果実を使った商品を継続して販売したい店舗や企業、商品の背景まで一緒に伝えてくれる企画・デザイン・販売の方とつながれたらと思っています。
作るだけで終わらず、生産者にも、加工する側にも、販売する側にも続けられる商品を一緒につくっていきたいです。

Next Relay

このバトンが、次へつながる。

ワイン葡萄専門農家 YOSHIZAWA FARM 吉澤信さん

小布施YEGで一緒に活動させていただいています。