生活のすべてをぶどうに合わせても、ぶどうは思い通りにならない。𠮷澤農園・𠮷澤信さん

2026.10.06

𠮷澤農園 𠮷澤信さん。農園にて。

Relay From 中高果実加工株式会社の酒井さんからご紹介いただいたのは、小布施町でワイン用ぶどうを専門に育てる𠮷澤農園の代表、𠮷澤信さん。

𠮷澤さんが育てたぶどうは、ココ・ファーム・ワイナリー、小布施ワイナリー、ドメーヌ長谷&ヒカルファームなどへ届けられています。

「僕の好きなワイナリーさんです」

そう話す𠮷澤さん自身も、2022年から委託醸造でワインづくりを始めました。もともとワインを専門に学んできたわけではありません。食べることが好きで、酒が好きで、歴史を調べることも好きだった。長野へ戻り、「何か自分でやらなきゃ」と考えていたとき、ワイン用ぶどうの世界を知りました。

それから研修を経て独立し、栽培を始めて十数年。夜明け前から畑へ出ても、天気は変えられない。生活をぶどうに合わせても、その年、その畑によって出来は違います。それでも、出荷するときの選果には妥協しない。

「まだまだ勉強中ですよ」

そう言いながら、畑の先には、自分で醸造すること、料理と一緒にワインを飲んでもらうこと、小布施で夜に一杯飲める場所まで思い描いています。

好きなワイナリーに、自分のぶどうを届ける

Q. 𠮷澤農園では、どんな仕事をしていますか。

A. 小布施で、ワイン用のぶどうを専門につくっています。基本的には、育てたぶどうを契約しているワイナリーさんへ渡しています。ココ・ファーム・ワイナリーさん、小布施ワイナリーさん、ドメーヌ長谷&ヒカルファームさん。

僕の好きなワイナリーさんです。

最近はワイナリー自体も増えているので、「この辺のぶどうを使ってみたい」と新しく声をかけてもらうこともあります。そういう場合は、お試しで少しお渡しすることもあります。

あとは、自分のワインも委託醸造でつくっています。2022年から醸造をお願いするようになって、販売を始めたのはその翌年からですね。ワインって、ぶどうを収穫して仕込めばすぐ売れるというものでもないので。

できてから瓶で熟成させる時間もありますし、「いつ出すのが一番いいのか」というのも難しいです。最初のヴィンテージも、今振り返るとちょっとクセがあったんですけど、それはそれで面白かったなと思います。

まだまだ勉強中です。

栽培を始めて十数年。それでも「毎年勉強」と話す𠮷澤さん。

おいしいものと酒が好きで、だったら自分でつくろうと思った

Q. ワイン用ぶどうを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

A. きっかけはいろいろあります。もともと東京で、結構自由気ままに暮らしていたんです。長野へ戻ってきてからもバイトをしたりしていたんですけど、あまり長続きしなくて。そろそろ何か自分でやらなきゃな、独立しなきゃなと思っていました。

その頃、農業をやりたいという人と出会ったり、親も定年退職して農業を始めたりして。自分でも農業について調べるようになりました。もともと食べることは好きでしたし、お酒も好きでした。歴史を調べるのも好きで、ワインやワイン用ぶどうの歴史を調べてみたら、これが面白かったんです。

「だったら自分でつくってみよう」と。そんな感じですね。そこから2年間くらい研修をして、独立しました。最初は本当に何もなかったので、農協に相談へ行ったりしながら、一からです。

栽培を始めて、今で12年、13年くらいですかね。畑も少しずつ増えてきました。気づけば、ずいぶん長くやっています。

畑ごと、年ごとに違うぶどうの状態を見ながら、収穫までの日々を積み重ねます。

生活をぶどうに合わせても、ぶどうは思い通りにならない

Q. ぶどうづくりで難しいのは、どんなところですか。

A. 毎年違うことですね。畑も何か所かあるので、全部がうまくいく年ってないんですよ。「あっちはいいけど、こっちは駄目だな」とか。年によって全然違います。

収量が多ければいいかというと、そういうわけでもない。もちろん量で売る農家としては、少ないと困るんですけど、たくさん実をつければ必ずいいぶどうになるわけでもありません。

天気にもかなり左右されます。今年なんかは9月に雨が多くて、難しかったです。雨が多いと、ぶどうが水っぽくなったりもするし。だから収穫時期も、毎年同じ日というわけにはいきません。

この時期になるとワイナリーさんとも連絡を取りながら決めます。遠いワイナリーさんでも、サンプルを送ったりして状態を見てもらう。数値を見ながら判断する部分もありますし、自分で畑を見ていて、

「そろそろ取った方がいいな」

という感覚もあります。一日一日、変わっていくんです。朝も早いですよ。時期によっては3時前から消毒したりしています。一日何時間働いているんだろうっていう(笑)。

でも、十何年やっていると、それが普通になっているんですよね。どうやって乗り越えてきたかと言われたら、根性でしか乗り越えてないですね(笑)。

生活のすべてをぶどうに合わせているはずなのに、ぶどうは思ったように育ってくれない。農家の人がよく「毎年勉強だ」と言いますけど、本当にそうだと思います。

13年やっても、まだ途中です。

ワインになる前のぶどうだからこそ、出荷するところまで自分の基準を通します。

「ちょっとくらい」を入れず、選び切る

Q. ぶどうを出荷するときに、大切にしていることはありますか。

A. 妥協しないことですかね。本当は、少しくらい傷んでいるものも一緒に入れてしまえば、作業としては楽なんです。でも、そこはちゃんと選果します。悪いものは落とす。人が必要ならパートさんに来てもらってでもやります。採算だけ考えたら、

「そこまでやらなくてもいいんじゃない?」

というところまでやっているかもしれません。経営者としてどうなんだ、っていうのはありますけど(笑)。

月末になって、「うわ、これはやばいな。このあとどうしよう」みたいになることもあります。やりすぎているのかもしれない。でも、そこで雑にしてしまうのも、自分としてはやり切れないんですよね。ぶどうを見てもらえば、見る人が見れば「ちゃんとやっているな」というのは分かってもらえると思っています。

ただ、自分のぶどうや、自分のワインが常に最高だとは思わないようにしています。もっと上がありますから。昔はワインをそんなに飲んでいなかったんですけど、今は好きでいろいろ飲みます。海外のワインも飲みますし、日本ワインもなるべく飲むようにしています。自分のところのワインを飲んで、「おいしいな」とは思います。でも、それで終わっちゃ駄目なんだと思います。

ほかのものを飲んで、もっとこういうのがあるんだなと知る。その繰り返しですね。

ワインになる前のぶどうだからこそ、出荷するところまで自分の基準を通します。

畑から、ワインを飲むところまで

Q. これからやってみたいことはありますか。

A. やりたいことはいっぱいあります(笑)。一番は、いつか自分で醸造してみたいですね。今は委託醸造なので、自分で育てたぶどうをお願いしてワインにしてもらっています。

それを自分でできたら面白いなと思います。酒屋さんやレストランにも卸せるように免許を取って、飲食店の人たちとももっとつながりたいです。ワインって、料理と一緒に飲むものでもあるじゃないですか。

「この料理にはこのワインが合うね」というところまで一緒に考えてもらえたら面白いです。あとは、小布施で夜に気軽にワインを飲める場所が欲しいんですよ。昼間に楽しめる場所はいろいろありますけど、夜に「もう一杯だけ飲みたいな」と思ったときに、気軽に行けるワインバーって、この辺だとそんなにない。自分が飲みに行って帰ってきたときに、よくそう思うんです。この辺にはいいワインをつくっている人がたくさんいるので、そういうワインを飲める場所があったらいいですよね。

畑の横には、小さな販売所もつくってみたいです。それはDIYでやろうかなと思っていて。
ワインだけじゃなくて、発泡酒の免許区分になるような、ちょっと違ったものをつくったこともあります。
次は音楽フェスにも出てみたい。

勢いでやっていることが多すぎるんですけど(笑)。でも、いろいろやってみたいんですよ。まずはちゃんとぶどうをつくる。その上で、自分で醸造したり、料理と合わせてもらったり、直接売ったり、飲める場所までつくったり。

畑から、そのワインを飲んでもらうところまで、少しずつつながっていったら面白いと思っています。

畑から、そのワインを飲んでもらうところまで。𠮷澤さんの仕事は少しずつ広がっています。

編集後記

𠮷澤さんの話を聞いていると、「やっていること」の多さと、「自分のことを大きく言わない」ことの差が印象に残ります。

2年間研修し、独立して十数年。ワイン用ぶどうを専門に育て、好きなワイナリーへ届ける。選果には採算以上に手をかけ、自分のワインもつくり始めた。それでも本人から出てくるのは、「根性でしか乗り越えてない」「やりすぎてるかもしれない」「まだ勉強中」という言葉です。

生活のすべてをぶどうに合わせても、ぶどうは思い通りにならない。

だからこそ、今年の畑を見て、ほかのワインを飲んで、また次を考える。思い通りにならないものを相手に十数年続けながら、それでも「もっと上がある」と思えること。𠮷澤さんの強さは、何かを完成させたことよりも、まだ途中だと思いながら手を抜かずに続けているところにあるのだと思いました。

関連リンク

We Can

小布施町産ワイン用ぶどうの栽培・供給
ワイナリー向けワイン用ぶどうの相談
少量からのぶどう供給相談
委託醸造によるワインの製造・販売
自社ぶどうを使ったワイン・発泡系商品の企画
ワイン用ぶどう栽培に関する情報交換
飲食店・酒販店へのワイン提案
料理とワインの組み合わせに関する協働
ワインイベント等への出店相談

We Want

𠮷澤農園では、ぶどうを育ててワイナリーへ届けるだけでなく、その先の「どう飲んでもらうか」まで仕事を広げていきたいと考えています。
自社のワインを扱ってくれる酒販店や飲食店、料理との組み合わせを一緒に考えてくれる料理人などとつながれたらと思っています。
将来的には自分での醸造にも取り組みたいと考えているため、小規模なワイン醸造や設備、免許、運営などについて経験のある方との情報交換も歓迎です。
また、畑横の販売所づくりやイベント・音楽フェスへの出店など、ワインを直接知ってもらう機会も増やしていきたいです。
栽培や商品そのものに時間を使う一方、SNSなどで自分たちのことを発信するのはあまり得意ではありません。
畑やぶどう、ワインの背景を理解した上で、その内容を外へ伝えることを一緒に考えてくれる方ともつながれたらと思っています。