信頼は“つくるもの”。マスニ農園・清野友之が貫く「王道」の農業経営
2026.04.29
Relay From 吉岡さんからご紹介いただいたのは、青年会議所(JC)や同郷の経営者としても背中を追い続けてきた「大先輩」にあたる、マスニ農園の清野友之さんです。
北信地域を代表する果樹の産地、中野市替佐。この地で三代続くマスニ農園は、なぜ90%を超えるリピート率を維持できているのか。その背景には、「信頼は積み上げるもの」という一貫した経営思想がありました。農業の抱える課題や現実と向き合いながら、「急がず、確実に」歩み続けてきた三代目・清野友之さん。その経営の根底にある意思決定の考え方と、地域の未来への視座を伺いました。
家を継ぐという選択は、自然な流れだった
Q. 農業の道に進まれた原点と、家業への思いをお聞かせください。
A. 私の家系は、祖父が村長を務めるなど、古くからこの地域に根ざしてきました。かつては材木業なども営んでいましたが、時代の変化を見据えた祖父が、地域を巻き込んで始めたのがこの農業です。それを父が継ぎ、三代目として私が引き継ぎました。
家訓として「先祖を大事にする」「長男が家系を守る」という教えが骨身に染みていたので、農業高校に進んだのも自分にとっては自然な流れでした。幼い頃から手伝いに明け暮れていたわけではありませんが、「いつか自分がこの土地を守るんだ」という感覚は、常に持っていた気がします。

先代のスタート地点の直売所
借金を返して見えた、「信頼」という経営資産
Q. 経営を引き継ぐ中で、大きな転機となったことはありますか?
A. 実は、私が代表を継承する以前、先代は新規事業に伴う大きな負債を抱えていました。しかし、先代はそれを誰の手も借りず、自らの力だけで見事に完済されました。27歳で私が正式に代表を引き継いだのは、先代がその責任を果たし、道を切り拓いたタイミングです。その経験から私は「石橋を叩いて渡る」ような堅実な経営を信条にするようになりました。
大切にしているのは、伊那食品工業(かんてんパパ)の塚越会長が提唱する「年輪経営」にあるように、急成長を追わず、少しずつ、着実に成長していくことです。ここに至る人格形成には、JCでの活動も大きく影響しています。お金ではなく「信頼」で成り立つ人間関係。サービスの内容以前に「清野さんだから買うよ」と言っていただける関係性を築くこと。失敗を恐れず、それを信頼を得るための糧にしていく。その積み重ねが、今の私の土台になっています。
もともと家業の中では、「失敗は悪いことではない」という教えがありました。むしろ、失敗しなければ得られないものがあり、最終的には大きな花を咲かせるための過程だと。だからこそ、私は大きなリスクは避けつつも、小さな失敗を挫折だとは捉えていません。どうすれば信頼につながるのか、その一つひとつを確かめながら積み重ねていく感覚に近いですね。
「高く売れる時代」に、あえて王道を選ぶ理由
Q. マスニ農園として、最も大切にしているこだわりは何でしょうか。
A. 理念として掲げているのは、「お客様においしいものを良心的な価格で提供し、フルーツを通じてすべての人を幸せにする」ことです。ここには自分や家族、そしてもちろんお客様も含まれます。
今の時代、高く売る手法はいくらでもあります。しかし私たちは、あえて「王道」を行きたい。良質なものを、良心的な価格で。旬の一番良い時期に、自信を持って届ける。カタログには商品だけでなく、私たちの考え方や農園の風景もしっかり載せています。お客様との距離を縮め、嘘のない商売を続ける。その結果として、今では90%以上のお客様がリピートしてくださっています。また、うちから独立した養蜂家が手がけるハチミツを扱うなど、仲間と共に成長できる形も大切にしています。

カタログの一部 お客様にぶどうの栽培過程なども共有
若手が残る地域には、理由がある
Q. これからの北信地域、そして農業の未来をどう描いていますか。
A. 私が提唱してきたのは「新3K(かっこよくて、稼げて、感動がある)」の農業です。これは長野県の農政部でも取り上げていただきましたが、若手が「ここで農業をやりたい」と思える環境を作ることが何より重要です。
中野市は農家の母数が多く、トップレベルの技術が醸成されやすい素晴らしい環境です。今、ぶどうが非常に強い時期ですが、私はあえて「りんご」での勝負も諦めていません。ぶどうのバブルのその後を見据え、継続性のある農業を確立したい。若手が互いに高め合い、全国と戦える地域にしていくために、私も一人の経営者として視座を高め続けていきたいと考えています。

「この人たちがいるからお願いしたい」と思ってもらえる農園へ。マスニ農園のスタッフの皆さんと。
編集後記
清野さんの話を通じて印象的だったのは、「信頼は結果ではなく、設計されたプロセスである」という点でした。大きな挑戦よりも、小さな意思決定の積み重ね。派手さよりも、継続性。その選択の連続が、90%というリピート率につながっています。急成長が称賛されがちな時代において、「急がない経営」を貫くこと。その難しさと価値を、改めて考えさせられる時間でした。
We Can
これまでの人生で培ってきたバランス感覚と経験値から、物事の核心を捉える力があります。ゴルフ、ポーカー、F1など多趣味でフットワークが軽く、様々な組織での経験を通じて得た多様な視点から、相手のためを考えた議論や提案が可能です。
We Want
これまで「王道」を歩んできましたが、時に自分の視界が狭まっていないか自問することがあります。スケールの大きな経営をされている方々の視点に触れ、農家という枠を超えた先のイメージを広げていきたい。より高い志を持つ経営者との交流を求めています。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
麺屋こころ|株式会社こころ 石川 琢磨さん
名古屋発祥の「台湾まぜそば」を世界展開している、非常に勢いのある経営者です。自分は農業という「王道」を実直に歩んできましたが、彼の持つグローバルな視座やビジネスのスケール感には、いつも強い刺激を受けています。長野に新たな風を吹かせている彼のバイタリティを、ぜひ皆さんに知ってほしいです。
ワレもこウ 扇谷 優さん
素材を活かした料理へのこだわりは、生産者である私にとっても非常に共感する部分が多い。地域に根ざしながら、新しい価値を創造し続ける彼女のストーリーを繋ぎます。
evolve 宮崎夕樹さん
小布施で素晴らしい一皿を追求されている宮崎さん。生産者の想いや素材の価値を誰よりも深く理解してくださる料理人です。