「正解」の外側にある、穏やかな暮らし。藤森果樹園が北信の地で見つけた、心をゆるめる生き方

2026.04.20

藤森果樹園 藤森陽一郎さん。ご家族4人での撮影。みなさん笑顔で、自宅前にて。

Relay From ぽぷり(下高井農業青年の会)つながりで神田農園の神田拓さんからご紹介いただき、今回は中野市で「藤森果樹園」を営む藤森陽一郎さんご夫婦を尋ねました。

東京でアパレル製品の開発やデザインに携わっていた藤森さんが、縁もゆかりもない北信の地へ移住したのは5年前のこと。美大出身の感性と、妥協のない「ものづくり」への姿勢を、今はぶどうや桃といった果実へと注いでいます。
「こうあるべき」という目に見えない枠からそっと足を踏み出し、日々の営みを慈しむ藤森さん夫婦。その静かな言葉の端々には、現代を生きる私たちが忘れかけている「心の余白」の大切さが宿っていました。

週5日の「我慢」ではなく、毎日を「心地よく」過ごすために

Q. 東京でのキャリアを離れ、農業という道を選ばれたのはなぜだったのでしょうか?

A.東京での会社員時代、平日の5日間を我慢して働き、週末にリフレッシュする……そんなサイクルを繰り返す生活に、ふと疑問を感じたんです。「これからの人生、毎日を楽しく過ごせる時間を増やしたい」という思いが、全ての始まりでした。

もともと、誰かに雇われるのではなく、自分の手で何かを形にしたいというモチベーションがありました。キャンプ場や伝統工芸など、いろいろな選択肢をリストアップして検討する中で、果樹栽培の奥深さに惹かれていったんです。美大時代の友人が農業で独立していたことも、一つの道標になりました。有楽町の移住フェアに通い、リサーチを重ねる中で、この北信の地に出会いました。

ゼロからの土台作りを支えてくれた、地域の「縁」

Q. 縁のない土地での就農には、特有の難しさもあったかと思います。

A. 就農5年目を迎え、今は生活の基盤が整っているように見えるかもしれませんが、振り返れば住まいも畑もゼロからのスタートでした。親元での就農ではない私たちにとって、ベースを築くことが最大の壁だったように思います。

自分たちなりに動いてはみたものの、なかなか道が開けず、途方に暮れそうになったこともありました。そんな時、偶然出会った地域の方が多大なる協力をしてくださいました。その方とのご縁がなければ、空き家も畑もお借りすることはできず、今の藤森果樹園は存在していなかったでしょう。行政の支援はもちろん心強いですが、最後はやはり、地域の方の温かい支えがあってこそ。そのご縁には、今も感謝が絶えません。

果樹園で取れたシャインマスカット。粒が大きくて瑞々しい。

効率の先にある「質」に、手間を惜しまず向き合う

Q. 藤森果樹園が大切にされている、ものづくりの姿勢を教えてください。

A.「少量高品質」であることにこだわっています。前職で靴のデザインをしていた頃、世の中が安価な大量生産へとシフトしていく中で、ものづくりの限界や違和感を感じていました。だからこそ、自分の手でつくるものは、その価値を理解してくださる方に届く「本物」でありたい。

農業において「質」と「量」はトレードオフの関係です。例えばぶどうの枝管理。通常はシーズンに2回程度の作業を、うちは5回行います。枝にいく養分を減らし、その分を実に集中させることで、味も大きさも格別なものになる。手間をかければかけるほど、果実はそれに応えてくれます。その対話を楽しみながら、自分たちが納得できる品質を追求しています。

コンクールにて受賞した際。ポプリの同輩と。

「正解の世界」を飛び出し、もっと楽に生きられる場所

Q. これからの展望や、伝えたいメッセージがあればお聞かせください。

A.いつか、農家民泊のような「人が集まれる場」を作りたいという夢があります。それはお金を稼ぐためではなく、「会社に勤めなければならない」「都会でしか生きられない」といった、硬直した考えを少しだけゆるめられる場所になればいいなと思っていて。

実はシーズン中、人生に迷っているような友人の友人が、ふらりと泊まりに来ることがあるんです。一緒に出荷作業を手伝ってもらいながら、とりとめもない話をしたり。 都会にも田舎にも、「こうあるべきだ」というマインドセットは存在します。でも、その「正解の世界」だけで生きようとすると、どうしても辛くなってしまう。引きこもりとなる息苦しさも、経験としてよく分かります。

少しだけ考え方を柔軟にできれば、人生はもっと全然違う、豊かなものに変わるはず。何かに囚われて進めなくなっている人が、ふっと枠の外に飛び出して、楽に息ができる。そんな多様な生き方の選択肢を、緩やかに伝えていけたら嬉しいですね。

友人らと一緒になって出荷作業を行っているとき。

編集後記

取材中、藤森さんはこちらの質問に対して、じっくりと考えながら、自分の言葉で一つひとつ丁寧に答えてくれました。特に印象に残ったのは、「正解の世界だけで生きていると辛くなっちゃう」という言葉です。都会での生活や移住後の経験、ひきこもりのご経験など。そうしたものを経て出てきた本音の言葉だからこそ、どこかホッとするような説得力がありました。「こうしなきゃいけない」という決まりきった枠から一歩外に出て、自分たちが納得できるペースで暮らしている藤森さんご夫婦。その気負わない姿を見ていると、私自身もなんだか心が軽くなったような気がします。

We Can

地元のつながりを大切にしつつ、異なる業界や地域の方々との出会いを求めています。お互いの視野を広げ、多様な価値観を認め合えるような、穏やかな関係を築いていきたいです。

We Want

地元でのつながりは少しずつできていますが、全く異なる業界や地域の方々との新たな出会いを求めています。異業種からの就農者として、固定観念に囚われず、多様な価値観を持つ人々と交流し、互いの視野を広げられるような関係性を築いていきたいと考えています。

Next Relay

このバトンが、次へつながる。

有限会社丸山自動車興業 丸山 大さん

子どもが同級生というご縁で、家族ぐるみでお世話になっている方です。