見えていること以外が映っている写真を撮りたい。丸山写真館・丸山玄さん
2026.10.05
Relay From きのこの森有限会社の霜鳥さんからご紹介いただいたのは、丸山写真館の丸山玄(ひかる)さん。
丸山写真館では、七五三やお宮参り、成人式といった記念写真をはじめ、家族写真、学校の卒業アルバム、集合写真、商品撮影など、さまざまな写真を撮っています。神社へ出向いて撮影することもあれば、古くなった写真を修復したり、遺影写真をつくったり、スマートフォンで撮った写真をプリントしたりすることもあります。
丸山さんが写真館に入ってから、およそ16年。最初から強く写真家を目指していたわけでも、父親から「継げ」と言われていたわけでもありません。それでも、父親が続けてきた丸山写真館を「後継者がいませんでした」で終わらせていいのか、という気持ちはあった。
そして3年前、父親が亡くなりました。それまで「父の仕事は父の仕事」とどこかで分けていたものが、一気に自分の仕事になる。今も「乗り越えている途中です」と話す丸山さんに、写真館を継いだ経緯と、撮りたい写真について伺いました。
継げと言われたわけではない。でも、なくしていいのかと思った
Q. 写真館を継ごうと思ったのは、なぜだったのでしょうか。
A. 写真屋の家に生まれて、姉と妹がいて男は僕ひとりなんですけど、親から「継げ」と言われたことは一度もありませんでした。と言って高校を卒業する頃、特別やりたいこともなく…。人よりは絵を描くのが上手だったという理由で、大学はデザイン学科に行きました。1年生の頃の静物デッサンとかの課題はわりと成績良かったのですが、「名刺をデザインしましょう」とか「カレンダーをデザインしましょう」とかクリエイティブ要素が強い課題になってくると、まあ大変で(笑)。自分はそんなに発想が豊かな方ではないので「大学の課題でこの有様じゃ、こっち方面に就職したらとても苦労するんじゃないか」と思うようになりました。
一方で、どうやら父はお客様からも同業の方からも、それなりに評価されている写真屋さんのようだぞと。その丸山写真館を「後継者がいませんでした」で終わらせていいのかな、という気持ちがありました。大学2、3年くらいの頃には「じゃあ家を継ぐか」と考えていたと思います。我ながら非常に安直な考えで恐ろしいですけど。
ただ、大学を出てそのまま家業に入るのではなく、一度は一般企業で働こうと思っていました。写真館へ修行に行く予定もあって。父が知り合いの写真屋さんに話をして、そこで働かせてもらうというものです。その間、ちゃんとしたお給料がもらえるか分からないので、その補填用として一般企業で少し働いて資金をためておこうと思っていました。
というのは建前で本音は「まだ田舎に帰りたくなーい。都会にいたーい。」でした。内定もらった企業が全然業種の違うところだったので、今考えるともう少し潰しがきく業種を選べばよかったなとも思います。「長くても3年かな」と思いながら就職し、色々あって結局1年半で辞めました。でも200万近く貯めたかな。
そして中野に戻るのですが、「写真が趣味」というわけですらなくカメラに関する知識も全くなかったので、ひとまず父の仕事を手伝いながら修行の準備?をしていたのですが、父が考えていた修行先の写真館さんに断られてしまって。それで「もういいやお前このままうちで働け」と言われて。父は息子と働けるのが嬉しかったようですね。それが16年くらい前のことです。

「父の仕事は父の仕事」のまま、過ごしてしまった
Q. 家に戻ってからは、順調でしたか。
A. いやあ、常にうっすら挫折しています。24時間365日、うっすら。
今でもやっぱり一度は別の写真館へ修行に行くべきだったと思っています。ここって仕事場ではあるんですけど、同時に実家でもあるんですよ。例えばミスをして、普通の企業の上司・部下だったら盛大に怒られるべきところを、家族だけでやってる写真館なのでなぁなぁにしてしまったりして。僕は性格的にだらしない部分もあってぽけぽけ働いていました。
一般企業なら、例えば上司がやっている仕事を見て、「これはいずれ自分がやることになるから覚えなきゃ」と思うじゃないですか。でも父と働いていた当時は、「父のやっていることは、父のやること」という感覚がどこかにあって、「自分のやれる範囲を拡げていかなくては」という気概が薄かったんですね。
それでも遅いペースなりに技術的に成長してきたと思うんですけど、3年前に父が亡くなりまして。そこでいろいろ分かっていないことが一気に出てきました。写真のことだけではなくて、会社の経理だったり、保険だったり。父を都合よく隠れ蓑にして仕事をしてきたツケが回ってきました。
写真の仕事でも、父がメインで受けていた仕事がぱたっと来なくなったり。「ああ、これは丸山写真館に来ていた仕事じゃなくて、父に来ていた仕事だったんだな」と分かりました。
今になって思うと、父はこれだけいろんなことをやっていたんだな、と。自分がやっていたことは、すべての業務の中で言えばたいした割合ではなかったことを知りました。父に怒られたり苦言を呈されたことはもちろんありましたけど、「言いたいことの10分の1くらいだったんじゃないかな」と今になって思います。亡くなって3年経ちますけど、乗り越えた、という感じではないです。まだ途中ですね。まだ亡霊がいます。

父が亡くなる、一週間ほど前の後ろ姿
それでも、自分に来る仕事が少しずつ増えてきた
Q. お父さんが亡くなってから、仕事の変化はありましたか。
A. 来なくなった仕事はあります。でも逆に、自分になってから来るようになった仕事もあります。自分が外に出て、JCだったり地域の活動だったりに参加して、そこで知り合った方から仕事をいただくこともあります。そう考えると、全部悪くなったわけではありません。それと、親子でやっていれば意見がぶつかることも多々あったので、それがなくなってやりやすくなった部分はあります。どう撮るか、考えるのは自分。責任持つのも自分。
写真そのものについては、富士フイルムさんがやっているこの業界の写真コンテストがあって、僕も毎年5〜10枚程度出しています。2019年に一度、テーマ賞という小さい賞をもらっているんですが、それ以来箸にも棒にもかからない。出品がノルマみたいな面もあるので、自信を持って作品を送っているというわけではないのですが。
それでも今年はちょっと自信あったんですけどね。やはり賞に入れず。でも、もう入賞作品が発表されてるのですが、入賞した作品を見ると「自分は全然まだまだだな」と感じます。
「じゃあ良い写真って何なんだろう」とは、ずっと考えています。
見えていること以外が映っている写真を撮りたい
Q. 丸山さんにとって、良い写真とは何ですか。
A. 難しいですね。一口に写真と言っても、人物、風景、建物、コマーシャルと様々ジャンルがありますし。
例えば家族写真だったら、みんなが笑っていて素晴らしい家族写真に対して「笑い声が聞こえてきそうな写真」みたいなやや定番の賛辞があるんですけど、そういう感じで僕なりに言語化すると
一人のポートレートでも家族写真でもそうですけど、写っている人を全く知らない人がその写真を見たときに
「きっとこういう人なんだろうな」
と、なんとなく伝わってくる写真が、自分にとっては良い写真なのかなと思います。「人柄が写っている」ってことですかね。写真に実際写っているのは顔や服や姿勢だけなんですけど、その人の性格とか、人と人の関係性とか、見えないものまで写っているように感じる写真があります。そういう写真を撮りたいですね。もちろん、本当にその人がそういう性格なのかは分かりませんよ(笑)
うちはポーズに関してお客様に「ああしてください、こうしてください」と結構言います。体を少し傾けるとか、左右どちらの足に重心かけるとか。小さなことなんですけど、撮影後にお客様にすべての写真を見せると「ちょっとの姿勢の違いで全然雰囲気変わりますね」と言っていただけたりします。さっき言った「見えていること以外」っていうのもそういうことの先にあるものだと思っていて、その辺はこれからも大切にしていきたいですね。
でも逆に小さいお子さんなんかだと、あれこれ言わずに自由に勝手に動いてもらった方が面白い写真が撮れたりしますし、自分が撮られていない時に何気なく立っているお父さんがすごく自然で格好良くて「お父さん、今の姿勢のままカメラの前へ!」なんてこともあります。本当に人によって違うので、常にその人を観察していることが大事です。
修整もしていて、シミやシワを薄くしたり、顔の左右差を少し整えたり。人の顔って完全な左右対称ではないので、左右の目が若干大きさが違うとか、片方の目が少し上がっているとかありますよね。15年くらいやってきて「この人はここをほんの少し整えると、よりきれいに見えるな」というのが分かるようになってきました。それを「嘘じゃん」と言われたら、まあ、そうなのかもしれません。でも、ありのままのシミやシワがくっきり写った写真を、お金出して買いたいかというと、それもきっと違いますよね。
このデジタルの時代、ボタンを押せば画像が生成されるけど、写真を生業としている身からするとそれはまだ「素材」の段階なんです。唐揚げで言えば生の鶏肉の状態です。それに下味をつけて衣をつけて揚げていく作業が、現像であり色調整であり修整だと思っています。徐々に形が整えられていく工程は、やってて楽しかったりします。
人って、自分のセルフイメージを多少は良く持っていますよ。だから、そのイメージに少し近づけてあげる。ただし、やりすぎず。加工したことに気づかれないくらいがいい思います。仕上がった写真を見せたとき「ああ良く撮れたね。やっぱり写真屋さんで撮るとなんかきれいだね」と思ってもらえたらいいかな。
最近は少しAIを使っての加工もあります。遺影写真で頭の一部が切れている写真しかないときに、写っていない部分を補ってもらったりとか。とても助かりますが、これから画像の加工に関してどれくらいAIが使われていくようになるのか、恐ろしく思ったりもします。
記念日じゃなくても来られる写真館にしたい
Q. これから、どんな写真館にしていきたいですか。
A. 写真館って、やっぱりちょっと敷居が高いと思うんです。七五三とか成人式とか、お宮参りとか。何かお祝い事があるときに、予約して、ちゃんとした格好をして行く場所。もちろん、そういう写真もこれからずっと撮りたいです。
でも「写真を撮る理由」って人の数だけあっていいと思っていて。
例えば、すごく気に入っていて着倒した服を、捨てる前にそれ着てしっかりした写真撮ろうか、とか。女の子に振られて超ショックなときに「ここから這い上がってやる」って意味を込めてどん底状態の自分を写真に残しておくとか。(笑)
そういうコンセプトを持って写真館に来る人が増えると良いなと思ってます。こっちはそれをどう表現するか、めちゃくちゃ考えて撮ります。そりゃお金はかかりますけどね。生活に必須なもの以外で、自分が価値があると思ったものに対価を払うって人間の健全な欲求だし、「心の豊かさ」みたいな意味でとても重要だと思います。
撮影以外でも、お客様が気軽に立ち寄れる店でありたいなと思います。うちは、お客様がデジカメやスマホで撮った写真をプリントすることはもちろんできるのですが、プリントするだけなら他にもっと安くやってくるところがいくらでもあります。傷だらけの古い写真をきれいにしてほしいとか、複数の写真を1枚にまとめたいとか、加工が必要なことは気軽にご相談いただきたいですね。
結構いろいろできます。遺影写真で顔はこの写真、服はこっちの写真から、という依頼もありました。たまに建築関係の方から、工事の申請で書類を出すのに「この建物と建物の間の柱、消せる?」みたいな相談も来ます。「いいの?そんなことして(笑)」と思いながらやります。
そういう変な相談は結構好きなんですよ。できるかどうかは分からないけど、とりあえず聞いてみてほしい。そういう写真館にしたいです。お茶だけ飲んでいってもらってもいい。留守の時もあるので来店されるなら電話一本いただきたいですけど。
今後は店の内装をもう少し整えたいです。ハード自体は、初めて来店されるお客様がスタジオに入って「すご…広い」と言ってもらえたりするんですけど、まだまだ前時代的というか。ロールスクリーンを下ろして撮るだけではなくて、壁そのものが写真の背景になるような場所。僕らは立体背景と呼んでいるんですが、漆喰の壁だったり、ドライフラワーやオシャレな小物が飾ってあったり。「流行を追いかける」というと良い言い方ではないですが、表現方法がどんどん広がっている今ですから、色々やっていかないとダメだなと思ってます。
地域との関わりも、これからも続いていくんでしょうね。JCを卒業してから、何かしらのイベントへ行くとだいたい先輩か後輩がいるんですよ。「ああ、どうもお世話様^^」みたいな。お祭りだったり、イベントだったり、まちづくりといったら大袈裟ですけど、少しでも地域を盛り上げる活動をなんやかんや同じような顔ぶれでやっていくんだろうなと思います。そこに「居心地の良さ」みたいなものも感じていて
基本、都会に憧れるけど、田舎でこうやって歳を食っていくのも、まあ悪くないかなと最近は思っています。
編集後記
丸山さんの話の中には、「まだ途中」という言葉がありました。
父親と一緒に働きながらも、分かっていなかった仕事があった。父親が亡くなってから来なくなった仕事もある。それでも、写真館は続いています。外へ出たことで新しく来るようになった仕事もあり、修整や画像加工の技術も積み重なり、自分が撮りたい写真についても言葉になってきました。
「人柄が写る」と言ってしまえば短い。でも、その人を知らない誰かが写真を見て、写っているものの向こう側まで少し想像できる。丸山さんの言う「見えていること以外が映っている写真」とは、そういう一枚なのだと思います。
関連リンク
We Can
七五三・成人式・お宮参りなどの記念撮影
家族写真・ポートレート撮影
神社などでのロケーション撮影
学校の卒業アルバム制作・撮影
集合写真
商品・物撮り
遺影写真の制作
古い写真・傷んだ写真の修復
写真の色調整・レタッチ
写真の合成・画像加工
AIを利用した写真の欠損部分の補完
スマートフォン・デジタルカメラ写真のプリント
写真の拡大・データ加工
We Want
丸山写真館の建物そのものは、お客様から「いいですね」と言っていただくことがあります。
一方で、撮影スタジオとして考えると、内装にはまだ手を入れたい部分があります。
ロールスクリーンの背景だけではなく、壁そのものが写真の背景になるような空間をつくりたいと考えています。
漆喰や左官仕上げの壁、花や装飾を取り入れた立体的な背景など、写真を撮ったときに自然に絵になる内装を一緒に考えてくださる左官職人、内装事業者、空間デザインに詳しい方とつながれたらと思っています。
また、「こんな写真加工はできる?」という少し変わった相談も歓迎です。
できるかどうかは、まず聞いてみてください。