80点以上のバラを、世に出す。保科バラ園・保科利徳さんの仕事
2026.08.23
Relay From hananonoの江原宏晃さんからご紹介いただいたのは、保科バラ園の代表、保科利徳さん。
保科バラ園では、ハウスで切り花用のバラを育て、市場へ出荷しています。苗を仕入れ、植え、管理し、収穫して出荷する。それが仕事の中心です。
一方で、今は市場出荷だけではありません。農薬を使わないハウスの一部では、食べられるバラも育てています。バラジャム、加工用の真空冷凍バラ、ドライフラワー、インスタグラムやECサイトを使った販売。さらに、オリジナル品種の育種にも取り組んでいます。
父の代から続くバラ農家を継ぎ、切り花を軸にしながら、バラの使い方を少しずつ広げていく。切り花をめぐる環境が厳しくなる中で、保科さんは「80点以上のものを世に出す」という基準を持ちながら、保科バラ園として生き残る形を探しています。
市場へ出す切り花のバラを、ハウスで育てる
Q. 保科バラ園では、どんなお仕事をされているのでしょうか。
A. ハウスでバラ苗を買って植えて、管理して、収穫して、市場に出荷する。それが主な仕事です。今はそれだけではなくて、バラ以外のものを出荷したりもしています。ただ、割合としては多くありません。基本は切り花用のバラの市場出荷です。
オランダやフランスなど、ヨーロッパで育種されたバラを、日本の輸入商社から仕入れています。ガーデン用のバラの市場はすごく大きいんですが、切り花用はそれほど多くない。そういうところもあって、切り花用のバラを扱う業者は日本に数件しかありません。その中で紹介されている苗を仕入れています。権利があるので、ロイヤリティと苗代がかかります。
Q. どのくらいの品種を扱っているのでしょうか。
A. 全部で20種類くらいです。オリジナル品種として自分で育種しているものもあるし、うちにしかないものも数種類あります。希少品種、昔からある品種、新しいものも。新旧問わず扱えるところは、小規模個人出荷の面白いところですかね。
Q. その他の取組みについてはいかがでしょうか。
A. 農薬を使わないハウスを一部つくっていて、食べられるバラもやっています。エディブルローズとして出荷したり、ジャムにしたり、加工屋さん用に真空冷凍したりしています。ドライフラワーもここ何年かで始めました。インスタ経由やオンライン販売もしています。

父の代から続くバラ農家を継いだ経緯を伺いました。
継ぎたくなかったけれど、花の仕事から離れていたわけではなかった
Q. バラ農家を継ぐことは、最初から考えていたのでしょうか。
A. いえ、もともと継ぐ気はありませんでした。
祖父の代から農業をしていましたが、バラを始めたのは父です。始めてから53年くらいになります。自分としては、どちらかといえば継ぎたくないという思いの方が強かった。それで高校を出て、逃げるように東京の大学に行きました。
大学は農業系で、就職したのも花を扱う企業です。意識していたのかもしれません。いつか将来に役立つかも、という気持ちもあったのかもしれない。仕事も楽しくて、大学生の期間も含め東京には11年いました。帰るタイミングもなかなかなくて。
Q. そこから戻ることになったきっかけは何だったのでしょうか。
A. 戻る3年くらい前から、父には「頼む」という話をされていました。その後、父が地元地区の役員をやるタイミングがありまして、年間で300日くらい家にいないと。そうした状況で仕事をしていられないと聞いたのが29歳のときです。
当時は仕事も楽しくやっていましたし、辞めることには葛藤がありました。ただ、将来のことも踏まえて、就農することにしました。
3万本のドライフラワーを、支援してくれた人たちに届けた
Q. これまで大変だったことはありますか。
A. ⽇々挫折の連続ですが、表⽴ってわかりやすい「壁」といえば、やはりコロナ禍での出来事です。
市場経由で、オリンピック関連イベントのために数万本という⼤量のバラのドライフラワーを注⽂をいただいていたのですが、オリンピック関連のイベントの中止に伴い、直前で全てキャンセルになってしまいました。お世話になっている市場経由の話だったのでキャンセル⾃体は理解できますが、数が数だけに、全て廃棄というのはあまりにもったいない。⾃分⼀⼈ではどうにもならない状況でした。
Q. その壁はどのようにして乗り越えられたんでしょうか。
A. 花屋さんの仲間や、いろんな⼈に相談したところ、「クラウドファンディングをやってみたらどうか」とアドバイスをいただきました。ちょうど知り合いでクラウドファンディングの経験者がいたので、その⽅にお願いして、急遽⽴ち上げることになったんです。
当時はコロナ禍で社会的な問題にもなっていたこともあり、変な形で注⽬されてしまいましたが、結果的に3万本ものバラがわずか1⽇で売り切れてしまいました。そんなに売れるとは思っていなかったので、⾃分⼀⼈で注⽂対応に追われ、3⽇間寝た記憶もないくらい⼤変でしたね。キャンセル分はなくなったものの、注⽂や⽀援したいという声がありがたいことに殺到し、新たなバラを作って期間内に対応するという形になりました。
新聞やテレビも取材に来てくださり、特に新聞の効果は⼤きく、⾼齢者の⽅からもFAXや電話で30件ほどの注⽂をいただきました。妻にも⼿伝ってもらいながら、本当に⼤変な時期でしたが、⽀援してくださる⽅々への感謝が⼤きなモチベーションになりました。今思えば、もっと⼈に頼ればよかったという⾯もありますが、あの時は「気合」で乗り越えたという感じです。

自然のものだからこそ、80点以上のものを出すことを大切にしています。
自然のものだからこそ、80点以上のものを出す
Q. 仕事をするうえで、大切にしていることはありますか。
A. 花屋時代からの感覚ですが、常に80点以上のものを世に出すことです。
もちろん100点を⽬指して⽇々努⼒していますが、なかなかそうはいかないのが現実です。だからこそ、⾃分の中で合格点である80点以上の品質のものを、出荷したり商品として提供したりすることを⼼がけています。例えば、30点くらいの品質にしかならないバラができた時は、加⼯⽤に回すなどして、プロとしてお客様に届けるものには妥協しません。
バラを選んで結束する「選花」の作業では特に、80点以上の基準を徹底しています。もちろん、気象や⾍の影響など、⾃分でコントロールできない原因で年に何回かクレームをいただくこともありますが、限りなくゼロに近づけるよう努⼒を続けています。
地元でバラ農家として知ってもらう接点を、少しずつつくる
Q. 地元との関わりについては、どのように考えていますか。
A. 農協青年部にも所属していたので、まちづくり的なものに触れる機会がありました。
やっぱり、この地域は農業の町という面が大きいと思っていて、特に果樹が大きな魅力ですよね。そういった中でも、中野市はバラ公園やバラまつりとしても有名。
ですが、実はバラ農家が少なくて意外と思われることもあって。なんでバラが有名なのか、知らない人も実は多いと思います。
Q. 保科バラ園のバラは、地元よりも都市部への出荷が多いのでしょうか。
A. そうですね。自分の場合は、7~8割くらいが東京への出荷で、あとは京都など。そうすると、地域とつながる機会があまりありません。
地元で売れれば輸送費も箱代もかかりませんので、自分としては地元で売れてくれるのが一番ありがたい。ですが、そういうわけにもいかないというのが現状です。
Q. 地元との接点づくりも、少しずつされてきたんですね。
A. 帰ってきた当初は、頼まれてアレンジ教室をしていたこもをありますし、地元観光センターにジャムを置かせてもらったり、イベントがあるごとに切り花を置かせてもらうなど、せめてもの地域貢献として取り組んでいます。
自分から強く営業していくというより、できる範囲で地域との接点をつくっていければという感じですかね。
切り花を軸にしながら、バラの使い方を少しずつ広げる
Q. 今後の展望についてお聞かせください。
A. 今は、引き続き新しいバラの育種をやりながら、出荷とは別にオリジナル品種の開発も進めています。
一方で、切り花をめぐる環境は厳しくなってきていて。肥料の高騰もあるし、輸送費も上がっている。そうした中で単価だけはなかなか上がっていかないのが現状です。
バラはどうしても贅沢品です。景気にも左右され、葬儀や結婚式などの業務需要も目に見えて減っています。そして、バラ農家も減っている。今が一番きつい時かもしれません。バラ農家仲間でも、このままでは厳しいというのが共通の理解です。
なので、切り花だけではなく関連した事業を始めて、よかったところを伸ばしていこうと考えています。バラのジャムもそう、ドライフラワーもそうです。実はバラの蒸留する機械を買って、ローズウォーターというものも少しずつ始めています。
小さく始めて、伸びたところを伸ばすというスタンスですね。切り花を軸にしながら、バラの使い方を少しずつ広げていきたいと思っています。

保科バラ園のバラ。ハウスにて、撮影時期は8月下旬。
編集後記
保科さんの話は、父の代から続くバラ農家を継ぎ、切り花を守りながら、バラの使い方を少しずつ広げていく話でした。自然のものだから100点は難しい。それでも、80点以上のものを世に出す。出荷するもの、加工に回すものを見極めながら、プロとして出せるものを出している。
切り花をめぐる環境が厳しくなる中で、食べられるバラ、ドライフラワー、ジャム、育種、ローズウォーターへと、小さく試し、伸びたところを伸ばしていこうとしているのだと感じました。
関連リンク
We Can
切り花用バラの生産・出荷
バラの花束・簡単なアレンジメント
バラの地方発送
食べられるバラ
飲食店向けの真空冷凍バラ
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ドライフラワー
オリジナル品種の育種
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インスタグラムやオンラインでも販売していますが、写真や見せ方はまだまだ課題です。商品ページがどうしても殺風景になってしまうので、写真撮影やデザイン、ECページづくりに詳しい方とつながれたらありがたいです。
また、食べられるバラや真空冷凍のバラ、バラジャムを使ってくれる飲食店さんともつながりたいです。料理の彩りや加工品の素材として、興味を持ってくれる方がいれば、できる範囲で関われたらと思っています。