父のシャインマスカットを食べて、農業をやってみたくなった。北村友三さんの仕事

2026.09.03

北村農園 北村友三さん。プラム農園にて。

Relay From 今回ご紹介するのは、やまろく機工の今井裕也さんからバトンを受け取った、信州中野北村農園の北村友三さんです。

北村さんは、中野市草間でぶどうとプラムを栽培しています。ぶどうはシャインマスカットが中心。プラムは秋姫とシナノパールを育てています。小さい頃は、田舎が嫌で、早く都会に出たいと思っていたそうです。大学進学で地元を離れ、東京や千葉で働き、戻るつもりはありませんでした。

それでも農業に向かうきっかけになったのは、お父さんがつくったシャインマスカットでした。東京で働いていた頃に送ってもらったシャインマスカットを食べて、「こんなおいしいものがつくれるなら、自分も農業をやってみたい」と思ったそうです。

1年に1回の収穫に生活がかかるプレッシャー。自然相手の仕事の忙しさ。思い描いていた農業とは違う現実。

それでも、手間をかけた分だけ良いぶどうやプラムが採れたことが、自信につながっていきました。今は通年雇用のスタッフを迎え、品質を守りながら、少しずつ農園を次の段階へ進めようとしています。

シャインマスカットとプラムを、草間で育てる

Q. 北村農園では、どんなものを育てているのでしょうか。

A. ぶどうとプラムを栽培しています。

農地は中野市の草間にあります。ぶどうは、今はほぼシャインマスカット。巨峰もありますが、父の代から植え替えをしていて、まだ収益の柱にはなっていません。

赤系のぶどうもありますが、今のところ大々的には出していませんね。プラムは、秋姫という品種とシナノパールを育てています。

販売は、基本的にはJAさんとの取引です。自社販売にも興味はあります。ただ、自分で売るとなると、販売もありますし、クレーム対応もあります。

うちはある程度の面積をやっているので、販売はJAさんにお任せして、自分は栽培に専念しています。

まずは、良いものをつくることに集中したいと思っています。

北村農園にて。収穫前(取材時期8月下旬)の秋姫をおみせいただいた。

父のシャインマスカットを食べて、農業をやってみたいと思った

Q. 農業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

A. 父がつくったシャインマスカットがおいしかったことです。

東京でサラリーマンをしていたときに、父が送ってくれたんです。それを食べて、すごくおいしかった。

「こんなおいしいものがつくれるなら、自分も農業をやってみたい」と思ったのがきっかけです。

小さい頃は、田舎がすごく嫌でした。早く都会に出たいと思っていましたね。大学は千葉に行きましたし、社会人になってからも、半分くらいは千葉、その後は東京にいました。トータルで13年くらい、地元を離れていました。

戻るつもりはありませんでした。でも、だんだん自然への興味が出てきて。登山が趣味だったこともあります。ずっと都会にいて、自然に関心が向いてきた時期でした。

すぐに帰ってきたわけではありません。

当時の仕事のプロジェクトもあったので、帰郷を決めてから3年くらいは東京にいました。その後、須坂にある長野県農業大学校の果樹コースに1年通って、果樹の勉強をしました。

それから父と一緒に農業を始めました。それが2019年です。

1年に1回の収穫に、生活がかかるプレッシャー

Q. 家業に入ってから、大変だったことはありますか。

A. 最初のプレッシャーは大きかったです。

就農して1年目は、父と一緒にやっていました。

父は、細かく手取り足取り教えるタイプではありません。背中を見て覚える、というようなところもあって。意見が合わないこともありましたね。

それで2年目くらいからは、自分でやるようになりました。そこでやっぱり、プレッシャーが大きかったです。

農産物の収穫は、1年に1回だけ。栽培がうまくできなかったら、家族を養っていけない。採れなければ、お金が入ってこない。そういう恐怖がありました。

自分が心配性で、考えすぎた部分もあるとは思いますが、当時は、ずっと仕事をしていました。余裕がなくて、妻や子どもに迷惑をかけてしまったこともありました。今となっては反省しています。

でも、収穫してみると、手間をかけた分、良いぶどうやプラムが採れました。それが何よりも自信につながりました。

何年かやっていくうちに、手の抜きどころも少しずつわかってきて。最近は、そこまでいっぱいいっぱいになることは少なくなってきました。

父の代から一緒にやってくれている親戚のおじさん、おばさんもいますし、私の代になって入ってくれた方も数名います。

そういう人たちに支えられながら、少しずつ自分の農業になってきた感じがあります。

色づき始めた秋姫

農業は、思い描いたようにはいかない

Q. 農業を続ける中で、大切にしていることはありますか。

A. めんどくさいことは先にやることです。あとは、自然相手の仕事なので、自然とともに仕事をするという感覚があります。

農業というと、スローライフのようなイメージを持つ人もいるかもしれません。自然に寄り添って、ゆったりしていて、気持ちも穏やかで、というようなイメージ。

自分も、ここまで忙しいとは思っていませんでした。実際に農業をやってみると、思い描いたようにはいきません。

急に暑くなれば作業を急がないといけませんし、雨が多ければ思うように作業は進まない。

自然と一緒に仕事をしているので、自分の予定どおりには動けないことが多いんです。

そういったもどかしさはありますが、それがあるからこそやりがいや楽しさもある。手間をかけた分、良いものが採れる。

その実感があるから、続けられているのだと思います。

東京への未練は、今はありません。ここでの生活を楽しんでいますし、充実しています。

東京で働いていた頃は、住むところというより、遊ぶところとして楽しかったのだと思います。

今は、この場所で農業をしていることが、自分に合っていると感じています。

人を雇い、品質を保ちながら農園を広げる

Q. これから、農園をどうしていきたいですか。

A. 今年から、新しくスタッフを入れました。男性のスタッフで、通年雇用です。

これは、自分の中では大きな決断でした。

その人の給料を生み出していかなければいけません。勇気のいることです。でも、今後はやっぱり、事業を拡大していきたい気持ちがあります。

自分がずっと現場、現場になってしまうと、事業を大きくしようという気持ちにもなれません。余裕がなくなってしまいますから。

だから、自分に余裕を生み出すためにも、一人雇うという決断をしました。まずは、ぶどうやプラムを、なるべく品質の良いものとして多く出すこと。それが土台です。

そのうえで、チャレンジしていきたいのは野菜です。

ぶどうは、6月から7月あたりに作業が集中します。去年からは、正規の代理店にお願いして、外国人の方にも来てもらったりもしています。それでも、人手が足りない感覚があって。

1年を通しても売上を上げられるのは収穫後の時期という限定的な側面がある。今栽培している作物とは別に、繁忙期をずらして栽培できる野菜など、収入を見込める仕組みをつくりたいと考えています。

とはいえ、広げすぎて、ちゃんとしたものをつくれなくなるのは本末転倒。特にぶどうを増やすことには慎重ですね。

ちゃんと計画して、品質を保ちながら広げていきたいと思っています。

収穫は1年に1回。その重みと手応えが農業の仕事にあります。

編集後記

北村さんの話は、家業を継いだというより、父がつくったシャインマスカットのおいしさに引かれて、農業を自分の仕事にしていった話でした。

1年に1回の収穫に生活がかかるプレッシャー。思い通りにいかない天候。忙しさの中で、手間をかけた分だけ良いぶどうやプラムが採れたことが、自信につながっていった。

通年雇用のスタッフを迎え、品質を守りながら少しずつ農園を広げようとしている今の段階にも、北村さんらしい慎重さと前向きさがありました。

We Can

シャインマスカットの栽培
プラムの栽培
秋姫・シナノパールの栽培
JA出荷を中心とした果樹生産
果樹農業に関する経験共有
農業青年部・地域団体への声かけ
地域イベントの企画・運営
農業者同士のつながりづくり
若手農業者との交流

We Want

機械まわりは、自分の中ではまだ弱いところがあります。農機具や設備、修理や使い方について相談できる方がいるとありがたいです。
また、農園としてスタッフを通年雇用し、これから少しずつ事業を広げていく段階に入っています。広げすぎて品質が落ちてしまっては本末転倒なので、第三者の目で農業経営を見てもらえる方、農業に特化した経営相談ができる方とも話してみたいです。
ぶどうやプラムの品質を守りながら、冬場の収入づくりや新しい作物にも取り組んでいく。そのバランスを一緒に考えてくれる方とつながれたらと思っています。