「この場所、面白いんですよね」。ひげのコーヒー西野智史が、須賀川で珈琲を焼く理由
2026.05.26
Relay From 喫茶あんき 樋口知生さんからご紹介いただいたのは、山ノ内町須賀川で「ひげのコーヒー|Higeno Coffee roastery」を営む西野智史さんです。
須賀川という場所のことを、西野さんは静かに、でも楽しそうに話します。
山に囲まれているから星空がきれいなこと。
オヤマボクチを使った蕎麦の文化があり、店ごとに硬さや風味の感じ方が違うこと。
そして、須賀川竹細工のように、この土地に受け継がれてきた手仕事があること。
一見すると珈琲とは別の話のようですが、西野さんにとっては、この土地の面白さそのものが、ここで珈琲を焼く理由のひとつなのだといいます。
珈琲が、須賀川を知るきっかけのひとつになったら面白い。
そんな思いで、北志賀高原の須賀川から発信を続けています。
浅煎り専門の焙煎師として全国にファンを持ちながら、拠点は山ノ内町須賀川。
この土地で珈琲を焼き続ける理由を伺いました。
「珈琲屋をやろう」と思って始めたわけではない
Q. まず、現在のお仕事について教えてください。
A. 店舗での販売もありますし、オンライン販売や店舗様への卸販売にも力を入れていて。イベント出店もしています。
基本は一人でやっていて。SNSで発信したり、県外イベントに出たりしながら、「須賀川って面白い場所なんですよ」というのを知ってもらえたらいいなと思っています。
Q. 珈琲屋を始めたきっかけは?
A. もともと珈琲はずっと趣味でした。焙煎したり、いろんなコーヒー屋を巡ったり。
4年前ほど前に、とある珈琲屋さんと出会って、「届け出はこうやるんだよ」とか、営業の始め方を教えてもらったんです。それで、じゃあやってみようかなと。
ただ、その前は病院勤務でした。今も冬だけ接骨院をやっています。スキー場での怪我の処置が中心ですね。長野県に来たのも、もともとは「スキー場で怪我を診られる仕事」という理由です。

珈琲に始まり、須賀川の土地の魅力までお話しを伺った。
須賀川という場所
Q. なぜ須賀川でお店を?
A. 須賀川は、オヤマボクチを使った蕎麦のエリアでもあります。
何軒か食べ歩いてみるとわかるんですが、お店ごとに硬さも風味も違います。
景色もよくて。山に囲まれていて、中野とか飯山の光が入りにくいので、夜はちゃんと暗い。だから星空がすごくきれいなんですよ。
須賀川竹細工のように、この土地で続いてきた手仕事もあります。根曲がり竹を手で割って、皮をはいで、編み上げる。そういう手仕事が今も残っています。うちでも須賀川竹細工のドリッパーを使って、コーヒーを淹れています。
須賀川って、志賀高原や渋温泉の陰に隠れがちなんですけど、実は面白いものがいろいろある場所なんですよね。
僕がこの地で珈琲をやっている理由のひとつは、そういう魅力を発信したいから。
珈琲が、この地域を知ってもらうためのコンテンツになれたら面白いと思っています。

店頭に並ぶ珈琲豆を説明いただいた。産地によって香りや味わいが変わる、その違いも浅煎りの面白さ。
浅煎りだから見えるもの
Q. 西野さんといえば「浅煎り」のイメージがあります。
A. 浅煎りの方が、生産地の個性が見えやすいんです。
深煎りにすると、その辺が隠れていく感覚があって。僕はそこを面白いと思っているので、浅煎り専門でやっています。
国や産地、精製方法によって変化する香りや味わいを知り、浅煎り珈琲の奥深さと魅力に惹かれていきました。
珈琲の“リレー”
Q. 珈琲のどんなところに惹かれていますか?
A. 珈琲って、リレーなんですよね。
農家さんが育てて、精製所で加工して、商社が運んで、焙煎師が焼いて。どこか一つだけじゃ成立しない。
浅煎りは、コーヒー豆ごとの個性をもっとも素直に表現できる焙煎です。産地や品種、精製による香りや風味の違いが、いちばんわかりやすく感じられる。
その一杯ごとの違いや個性を体験してほしいと思っています。
僕は生産地にも行っています。エチオピアのイルガチェフェという地域にあるアリチャ村とか、ハルスケ村とか。
同じエチオピアでも、豆を作っている村が違うだけで風味が全然違うんですよ。
現地の生産者の家にも泊まりました。そこでは「朝まで珈琲以外の話はするな!」って言われて(笑)。僕以外にもアメリカの人とか台湾の人とかと一緒にいたんですが、みんなで朝まで珈琲の話をしてました。

「AMBESSA JAPAN ROAST COMPETITION 2025」優勝時の賞状。焙煎の技術は全国で評価された。
「まだ人を呼べてない」
Q. これまで大変だったことは?
A. 壁は、ずっとあります。というか、まだ全然乗り越えてないですね。
僕としては、この須賀川にもっと人を呼びたいんです。
オンラインの売上は伸びていますし、県外から来てくださる方もいます。
香川とか札幌から来てくれた人もいました。
でも、もっとこの地域を知ってもらいたい。
イベントでは山ノ内町のフォトブックを配ったり、そばマップを渡したりもしています。
「そばを食べに来たついでに、珈琲を飲んで帰る」
みたいな流れができたら嬉しいですね。
珈琲を通して、地域を知ってもらう
Q. これからやっていきたいことは?
A. 浅煎りの文化をもっと知ってもらいたいです。試飲会とか、トークイベントとか。
飲み比べてしてもらうことで、その違いをちゃんと感じてもらうことができます。
あと、いろんな人とコラボもしたいですね。以前、長野ブルワリーさんと珈琲ビールを作りました。ワイナリーとか、日本酒とかとも相性がいいと思うんです。
珈琲って、意外といろんなものとつながれるコンテンツなんですよね。
編集後記
伺った話はどれも別々のようでいて、一つひとつの違いをそのまま面白がることができる、そういった視点ですべてつながっているように感じました。
須賀川の風景も、蕎麦の違いも、竹細工のような手仕事も、珈琲豆の産地も。
西野さんは、見過ごしてしまいそうな違いや奥行きに気づき、それを自分の言葉で楽しそうに話してくれる人でした。
We Can
浅煎り専門の焙煎を通して、珈琲豆の産地ごとの風味や個性を伝えることができます。
生産者や精製方法まで含めた“珈琲の背景”を大切にしており、試飲会やトークイベントなどを通じて、浅煎り珈琲の面白さを体験として届けていきたいと考えています。
また、珈琲を軸にしたコラボレーションにも積極的です。
過去にはクラフトビールとのコラボも実施。ワイン、日本酒、飲食、地域イベントなど、「珈琲と掛け合わせることで面白くなりそうなもの」との連携を模索しています。
We Want
山ノ内町や須賀川には、蕎麦や自然、星空など魅力的な地域資源がありますが、まだ十分に知られていないと感じています。
「珈琲をきっかけに、この地域へ足を運んでもらう」。
そんな流れを少しずつ作っていきたいと思っています。
地域の魅力発信や観光導線づくり、イベント企画、異業種コラボなど、一緒に面白がって動ける人たちとつながっていけたら嬉しいです。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
土屋商店 土屋智巳さん
落ち着いた雰囲気のオシャレなカフェを経営されています。うちのコーヒーも提供いただいてます。