位牌を、ものとして扱わない。市川木工技術研究所・西原稔裕が支える祈りのかたち
2026.05.23
Relay From 青木陽太郎さん(青木歯科医院 院長)からご紹介いただいたのは、有限会社市川木工技術研究所 代表取締役社長の西原稔裕さんです。
中野市に、国内の塗位牌の流通を静かに支えている会社があります。
有限会社市川木工技術研究所。
主に手がけているのは、位牌の下地製造です。位牌の札板上部など、塗位牌の土台となる部分を、木材やポリ素材を使って加工しています。
表に名前が出る仕事ではありませんが、国内で流通する塗位牌のほとんどに、市川木工技術研究所の仕事が関わっています。
代表取締役社長の西原稔裕さんは、結婚を機に奥様の実家であるこの家業に入りました。
話しぶりはとても淡々としていて、飾った言葉は多くありません。けれど、位牌について語る時、その仕事が単なる製造業ではないことが伝わってきます。
「その人本人をつくっているような気持ちがある」
東日本大震災の報道で、流された家の中から位牌を見つけた方が、「おじいちゃんを見つけた」と話していた姿が、今でも印象に残っているそうです。
ものではある。
けれど、ただのものではない。
祈りのかたちを支える仕事と、一本一本に向き合うものづくりについて伺いました。
結婚を機に入った家業。その後に見えた仕事の意味
Q. 今のお仕事に携わるようになった経緯を教えてください。
A. もともとは、ガスやボイラー設備の修理や営業の仕事をしていました。結婚して、妻の実家の家業を手伝うようになったのがきっかけです。最初は別の仕事を続けながらでしたが、後継のこともあり、先代から声をかけてもらって、本格的に入るようになりました。
最初は技術継承からですね。
ちょうど東日本大震災の頃だったんですが、震災関連の映像の中で、おばあさんが流された家の中から位牌を見つけて、「おじいちゃん見つけた」って話している場面があったんです。
その時に、位牌って単なる物じゃないんだなと感じました。
そこから、この仕事は残していかなきゃいけないものだと思うようになりました。

工場内にて。木材の切断加工をする様子。
木も機械も、思った通りにはいかない
Q. 仕事の難しさは、どんなところにありますか?
A. 海外製品が増えてきた時は大変でした。安い製品に押されて、業績が落ちた時期もありました。
あと、木は生き物なので、思った通りにいかないことが多いです。同じ木でも、ちょっとした曲がりや歪みがある。機械にも癖がある。うちで主に使っているのはベルトサンダー、要するにヤスリみたいなものなんですが、木を平らに整えるのは意外と難しいんです。
Q. それをどう乗り越えてきたのでしょうか。
A. 結局は、ひたすら作り続けることですね。
一本一本、真面目に向き合う。
木の癖も、機械の癖も、その中で覚えていく。
海外製品は雑な部分もあるので、そこは品質で巻き返していくしかないと思っています。家業に入って18年くらいになりますが、工程も少しずつ変えてきました。
位牌を製造するための設備も、一部は自社で作っています。位牌の部品を抜く機械だったり、ベルトサンダーの改造だったり。必要なものは自分たちで考えて作る感じです。

「木も機械も癖がある」。長年の経験が、加工精度を支えている。
位牌を、ものとして扱わない
Q. 仕事をする上で、大切にしていることは何ですか?
A. 位牌って、その人本人みたいな感覚があるんです。もちろん、商品なんですけど、買う人にとっては、お父さんだったり、お母さんだったり、おじいちゃんだったりする。
だから、雑には扱えません。うちが作っているのは下地なんですが、それでも「この位牌を選んで良かった」と思ってもらえるものになってほしいと思っています。
取引先あっての仕事でもあるので、卸した先ですぐ次の加工に取り掛かれるようなものを作りたい。取引先の大きな歯車になりたいという感覚です。
信頼関係が一番大事だと思っています。
“祈る文化”を、次の代へ
Q. 今後の展望について教えてください。
A. 中野でずっと暮らしてきたので、やっぱり地元が好きなんです。JCやYEGも、その気持ちがあったからやってきました。子どもたちにも、地元を大事にする気持ちは持っていてほしいなと思います。
仕事としては、人口減少の時代ではありますが、祈る文化自体はなくならないと思っています。位牌は、一生のうちに何本も買うものじゃないですし、次の代、その次の代へと受け継がれていくものです。だからこそ、ちゃんとしたものを作り続けたい。
ありがたいことに、子どもたちも少しずつ興味を持ってくれていて。次の代にも繋いでいければと思っています。

加工工程に合わせて、自ら設備を作り、直し、使い続けている。
編集後記
「国内シェアのほとんど」と聞くと、もっと強くアピールされる要素ではないかと感じていましたが、そういう感じではなく、淡々と「一本一本ちゃんと作るだけです」という西原さん。
でも、その“ちゃんと作る”の積み重ねが、長年の信頼につながっているのだと思います。
位牌というものを、「商品」ではなく「その人本人をつくっている気持ち」と話されていたのが印象的でした。
派手ではないけれど、なくなると困る。
そんな仕事が、中野にはまだたくさんあるのだなと感じた取材でした。
We Can
市川木工技術研究所の強みは、位牌の下地製造における技術と、必要な設備まで自社で考え、作り、直していくものづくりの力です。
木の癖や歪みに向き合いながら、月5,000〜6,000本の位牌下地を安定して製造しています。
国内の塗位牌流通を支える、見えにくいけれど欠かせない仕事を担っています。
We Want
原材料費の高騰が課題です。
位牌に適した木材や塗料、マスキングテープなど、製造に必要な資材の価格が上がる中で、品質を維持するための試行錯誤が続いています。
木材や塗料、代替素材、資材調達に詳しい方とつながりながら、安定したものづくりを続けるための選択肢を広げていきたいです。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
三京整骨院 丸山 桂さん
JCでのつながりです