芸術は一本の樹に宿る。雹害を乗り越え、品質に命を懸ける「牧野農園」牧野剛さん
2026.04.05
Relay From AbeFarm合同会社 阿部達也さんからバトンを受け取ったのは、中野市間山でりんごとももを育てる「牧野農園」の牧野剛さんです。過去にはフリーターや建築業を経験し、一度は農業とは異なる道を歩んでいた牧野さん。しかし、あるきっかけから独立就農の道を選び、今では品質に一切の妥協を許さない果実づくりに情熱を注いでいます。昨年は未曾有の雹害に見舞われながらも、家族の支えを胸に立ち上がった彼の「園芸は芸術」という哲学に迫ります。
今回は、牧野さんの果実づくりへの熱い思いと、北信地域の農業の未来にかけるビジョンを深掘りしました。
建築から農業へ、転身のきっかけ
Q. 現在のお仕事の概要について教えていただけますか?
A. 中野市の間山という地域で、りんごとももを栽培しています。ももが8反歩、りんごも8反歩くらいですね。間山は地形の都合上、2反歩くらいの畑が複数点在しているような形で、斜面もありますし、区画も細かく分かれています。
Q. もともと農業をされていたわけではないと伺いました。この仕事を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
A. はい、元々は建築業でひとり親方をしていました。その前はフリーターみたいな時期もあって、よく遊んでいましたね。そんな遊び仲間の中に農家の先輩がいたんですが、毎回といっていいほど顔を出すんです。その姿を見ているうちに「時間の融通がききそうだな」と思って農業に興味を持つようになりました。その後、ケガをきっかけに建築業を辞めることになり、親が兼業農家だったこともあって、自分は別の経営形態で農業を始めることにしたんです。
未曾有の雹害を乗り越えて

Q. 牧野さんの人生において、これまでの最大の「壁」や「挫折」は何でしたか?
A. まさに去年、雹害に見舞われたことです。5月に突風を伴う雹が降ってきて。樹が傷つくのもそうですが、5月は花を摘んで幼果を育てる時期だったので、もう幼果がダメになってしまうんです。いわば畑はマシンガンに打たれたような状況です。記録としてたくさんの写真を撮りましたが、すべて消してしまいました。見ると辛くなっちゃうし。農業共済保険にも入っていなかったというのもあって、一気に白髪も増えました(笑)。これまでは雨で少しコケることはあっても、昨年の雹ではもう全ゴケでした。
Q. その未曾有の「壁」を、どのように乗り越えたのでしょうか?
A. 農協の方々にご協力いただいて、なんとか乗り越えられました。本来であれば全部捨てるか、加工用に回すかという状況で、加工用だと1コンテナで500円くらいにしかならないんです。借入、雹害の融資も受けました。でも、一番の理由は1歳になったばかりの子供の存在です。子供の世話もしないといけないので、落ち込んでいる場合じゃないと。奥さんにも、「落ち込んでいる暇があるならオムツ替えてよ」とか、「車の保険には入るのに、なんで農家の保険に入らないの?」って言われました(笑)。やっぱり、子供を育てていかなければならないですからね。
園芸は芸術、品質一本勝負の哲学

Q. 仕事をする上でのこだわりや、牧野農園ならではの哲学があれば教えてください。
A. 私がやっているのは「園芸」ですが、この「園芸」の「芸」は「芸術」の「芸」だと思っています。つまり、作っているのは「作品」だという考え方ですね。自分はアーティストだという意識で、芸術を突き詰めています。目指す果実と現実とのギャップをどう埋めていくか、いかに綺麗で肥大した、理想の形状の果実を追求するか。インスタグラムで精力的に発信される方や、ご自身の栽培過程等をストーリーとして販売戦略をたてる方もいますが、私はちょっと違うかなと。そうやって付加価値をつけるのもわかるんですが、私は「品質一本勝負」です。
樹にも個性があります。どの地域でも上手く作っている人は確実にいます。今年コケちゃったっていう人もいる一方で、そうじゃない人もいる。標高も気候も似たような環境の中で、常に上手くいっている人がいる。そうした栽培技術の習得を突き詰めることは怠らないですし、そこが一番面白いところだと思っています。
あとは、地域の産業というか、家業としてやっているので、地域に迷惑をかけないこと。自分の名前でやっていますからね。
未来へ繋ぐ、北信の果樹栽培

Q. この地域を今後、どのようにしていきたいとお考えですか?
A. 有休荒廃農地が増えてきている現状があります。一番は、現存する樹、高齢者がやっている樹を、若い人が受け継いでいける地域にしたいですね。果樹は育てるのに何十年もかかりますから。私も、高齢でお辞めになった方が使用していた農地を借りていたりするんですが、「息子がやらないからやってほしい」と受け継ぐこともあります。そうした畑には、80代のじいちゃんばあちゃんでも、来年のための何かを残してくれているんです。そこをくみ取っていくことがとても大切なことだと感じます。
兼業農家が増えればいいなとも思います。部会員が減れば共選所が減ってしまいますから。特にりんごは栽培にすごく時間がかかります。私が30代半ばで植えた樹も、これで8年ほど経ちますがまだ若木の顔をしています。新規就農者が一からりんごを始めると、何十年も投資になってしまう。新規就農者は資金がないことが多いので、一からやるよりは引継ぎが重要になってきます。私も最初は野菜をやっていましたが、りんごのように時間がかかる作物こそ、そうした仕組みが大切だと感じています。
編集後記
牧野さんの言葉からは、果実への深い愛情と、地域への真摯な思いがひしひしと伝わってきました。厳しい自然と向き合いながらも、一本の樹、そして未来へと目を向けるその姿勢は、私たちに大きな感動を与えてくれます。牧野農園の美味しい果実が、これからも多くの人々を笑顔にすることでしょう。
We Can
あえて言うなら、これまで少し遠回りをしてきたことでしょうか。フリーターのような時期も含めて、フラフラと(笑)色々な世界を見てきたからこそ、人脈の幅広さには自信があります。どんな職種でも『仕事ができる人』をすぐに繋げられる、このネットワークは私の財産です。
We Want
いま子供がまだ小さいので、仕事の話だけでなく、子育ての悩みも共有できる方だと嬉しいですね。特に、家で奥さんに怒られているような『ちょっと抜けたパパ』は大歓迎(笑)。お互いの失敗談を笑い合えるような、人間味のある関係を築けたら最高です。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
株式会社Lien(リアン)の小林裕(ゆう)さん
実は私の同級生もそこで働いていて、縁の深い方なんです。うちの会社の倉庫はもちろん、自宅のカーポートまで、基礎に関わることはすべて彼にお任せしました。一言で言えば、とにかく『仕事ができる人』。現場を任せてこれほど安心感のある人はなかなかいませんよ。