使われていないものを、須坂の暮らしに戻す。株式会社須坂の暮らし・早川航紀さんの仕事

2026.08.13

株式会社須坂の暮らし 早川航紀さん。ソルガム畑にて。

Relay From 合同会社NORTHの北直樹さんからご紹介いただいたのは、株式会社須坂の暮らし 代表取締役の早川航紀さん。

会社名の通り、早川さんが取り組んでいるのは、須坂の暮らしを続けていくための仕事です。

遊休農地や耕作放棄地では、ソルガムという雑穀を栽培する。手入れされていなかった林は、間伐や整地をしてキャンプサイトにする。そば打ちやたけのこ収穫のような、地域に残る暮らしの体験も形にしていく。

一見すると別々の事業に見えますが、根にあるのは同じです。使われなくなった農地、手が入らなくなった林、受け継がれにくくなった暮らしの技術。それらをもう一度動かし、須坂の暮らしの中に戻していくこと。

早川さんは、上場やM&Aを目指すのではなく、自分が良いと思っている地域の文化や資源を活かした暮らしを事業を通じて100年先まで紡いでいきたいと話します。

使われていない農地や林を、もう一度動かす

Q. 株式会社須坂の暮らしでは、どんな事業をされているのでしょうか。

A. 会社の名前の通り、この須坂で、須坂の地域課題を解決したいという思いで始めた仕事です。今やっていることの一つが、未利用資源の活用です。農業系の部門では、遊休農地や耕作放棄地の対策として、ソルガムという雑穀を栽培しています。もう一つは、キャンプサイト。もともと手入れされていなかった森というか、林のような場所があって、そこを間伐したり整地したりして、キャンプサイトを作りました。

Q. 使われていない場所を、事業として動かしているんですね。

A. そうですね。地域には使われていない農地や、手が入らなくなった林があります。そういうものをそのままにしておくと、景観も崩れていきますし、管理も難しくなっていきますよね。

ソルガムもキャンプサイトも、未利用資源を活用するという意味ではつながっていて。小さくても、地域の中で循環する農業や事業のモデルを作りたいと思って取り組んでいます。

株式会社須坂の暮らしを立ち上げた早川さんに、事業の成り立ちを伺いました。

ソルガムで、地域の循環を小さく作る

Q. ソルガムに取り組んでいる理由は何ですか。

A. ソルガムは、イネ科モロコシ属の雑穀で、”たかきび”とも呼ばれるものです。水やりがほとんど不要で、農薬も使わなくていい。雨の少ない北信の気候にも相性がいい作物で、もともとはアフリカで栽培されていたようなものなんです。

栄養価も豊富で食用としても使えますし、茎や葉の部分も活用できます。

Q. 実の部分だけではなく、茎や葉も使えるんですね。

A. 茎葉の部分は、キノコの培地に使ったり、薪の代わりになるバイオブリケットにしたり、ヤギの飼料にしたりすることもできます。食用だけではなく、地域の産業に根づいた形で活用できる可能性がある。大学や行政、民間企業とも関わりながら、そうした活用モデルを作っています。

Q. 会社としては、どこまで関わっているのでしょうか。

A. ソルガムの流通や加工品の開発、生産者を育てること、収穫物の管理などをトータルでやっています。自分は信州産ソルガム普及協会の理事もしていますし、当社としては「信州そるがむで地域を元気にする会」の事務局も担っています。ソルガムをただ栽培するだけではなくて、地域の中でどう使っていくか。そこまで含めて事業にしていきたいと思っています。

そば打ちやたけのこ収穫を、暮らしの体験として残す

Q. 体験型農業にも取り組まれているんですね。

A. はい。そばの種まきや、そば打ち、たけのこ収穫のような体験もやっています。収益目的というよりは、この地域に残ってきた暮らしの体験を、少しでも残していきたいという思いがあります。

Q. 観光商品というより、暮らしの体験なんですね。

A. そうですね。昔だったら、地域の山を管理している人がいたり、畑が空いている人が自分で作物を作っていたりしました。地域のおばあちゃんがそばを打つとか、そういう暮らしがありました。自分は移住してきた人間なので、そういう体験をすごく贅沢なものだと感じるんです。でも、地元の人にとっては当たり前すぎて、価値として見えにくいこともあると思います。

Q. その体験を外の人にも届けたいということですね。

A. 少しでも広がっていけば、この地域のファンづくりにもなると思っています。商売として考えるなら、団体ツアーのような形もあると思います。ただ、今のリソースではなかなか難しい部分もある。

地域限定旅行業務取扱管理者の資格も取ったので、将来的には小さくてもパッケージにして、「須坂の暮らしツアー」のような形で外の人を入れていきたいです。今はイベントベースで、来たい人に来てもらう形でやっていますね。

キャンプサイトにて。行政と連携しながら、自身で伐採して拓いた場所。

田舎らしい景色を残したくて、須坂に来た

Q. 須坂でこの仕事を始めようと思った理由は何だったのでしょうか。

A. 須坂に移住を決めたのは、田舎らしい景色が自分に合っていたからです。特に、畑をメインでやっている豊丘地区は景色が良くて、自然に囲まれた環境です。この地域の暮らしを守りたいという思いは、ここに来た当初からありましたね。

Q. 景色や暮らしを残したいという思いがあったんですね。

A. はい。現地に入って話を聞くと、人がどんどん減っていることがわかりました。畑は所有面積が広いので、管理できなくなると、景色もどんどん崩れていきます。遊休農地や耕作放棄地の対策をして、環境を守ることが必要だと思いました。それで農業を始めました。

Q. もともと農業や食に関心があったのでしょうか。

A. ありました。もともと出身は長野県の木曽郡山口村で、平成の大合併で岐阜県になった地域です。半分冗談ですけど、自分では「岐阜県出身だけど心は長野県民です」と言っています。合併は中学生の頃でしたが、当時から心の故郷長野の為に働きたいという気持ちがありましたね。

大学は東京で、政治や法律系の勉強をしていました。その頃、バックパッカーもしていて、ラオスのような、普通のツアーではなかなか行かないような田舎にも行きました。生活は豊かではないかもしれない。でも、食べ物を食べているときは、みんな幸せそうに見えたんです。そのときに、食はすごく身近で、人の暮らしに関わるものだと感じました。

Q. そこから食品メーカーに就職されたんですね。

A. はい。食に関わりたい気持ちと、長野に関わりたい気持ちがありましたので。それで長野県のきのこの会社に入りました。一次産業に近い会社で、条件が合っていたんです。

ただ、配属は東京の事業所で、しかも二次加工の部署でした。本社は長野にあるけれど、自分がやっていることは生産現場に触れる仕事ではなく、東京での営業。3、4年目くらいで、そろそろ本気で長野のために動きたいと考えるようになりました。

そこから移住関係のイベントに参加したり、実態に現地に行ったりしました。その中で、須坂がしっくりきたんです。アクセスも良いし、雪深さも落ち着いている。景色や環境も気に入りました。地域おこし協力隊の制度は自治体の方に教えてもらい、その制度を使って須坂に来ることにしました。

ゼロから立ち上げる仕事は、大変だけど面白い

Q. これまで大変だったことはありますか。

A. 常に大変ですよ(笑)。やっていることはゼロイチが多い。森を拓くところから始めるとか、ソルガムのように一般に広く流通しているわけではない作物を扱うとか。世の中にあまりないものをゼロから始めることが多いので、すごく労力がいります。

Q. 続けるには、かなりエネルギーが必要ですね。

A. そうですね。思いが強くないと、モチベーションを維持するのは難しいと思います。ただ、一方で楽しさもあります。やっている仕事は楽しいですし、趣味みたいなものでもあります。「これいいじゃん」「これやろう」と思って始める。それがゼロイチで大変なんですけど、だからこそやれている部分もあります。

Q. 事業が広い分、リソース配分も難しそうです。

A. 体はひとつなので、リソースの振り分けが狂うと大変なことになります(笑)。大変でも、気づけば乗り越えていたという感じで、常に何かを立ち上げている感覚がありますね。

地域にどう返せるかを考えてから仕事にする

Q. 仕事をするうえで、大切にしていることはありますか。

A. もともと地域おこし協力隊で、地域課題を解決するという考え方がありました。議員をやっているのも、その流れです。2025年4月に会社を創業しましたが、仕事についても、地域のためになるか、地域の課題を解決できるかがコンセプトになっています。

Q. 仕事を始める前に、地域にどう関わるかを考えるんですね。

A. 自分がやる仕事が、地域にどうメリットがあるのか。どう還元できるのか。そこがスタートになっています。地域とのつながりや、地域への還元は、仕事をするうえで大切にしているところですね。ただ事業として成り立たせるだけでじゃくて、須坂の暮らしの中で意味がある形にしたいと思っています。

キャンプサイトで飼育する子ヤギ。草刈り役として活躍中だ・・・!

100年先まで、須坂の暮らしを紡いでいく

Q. これから、会社としてどんな形を目指していますか。

A. 上場を目指すとか、事業売却とか、そういうつもりはありません。前提に立ち返ると、自分が良いと思っているライフスタイルを、100年先まで紡いでいくことが展望です。新しい事業をやるとしても、会社のコンセプトに合っていることをやりたいです。

Q. 大きく広げるというより、残していく感覚なんですね。

A. そうですね。会社を大きくすること自体が目的ではありません。地域課題に比例して、会社も少しずつ大きくなっていけばいいと思っています。広げるというよりは、先輩たちがやってきたことをバトンタッチしながら、残していく。そこを大切にしていきたいですね。

Q. そのために、今課題になっていることはありますか。

A. 人的リソースですかね。農業分野は、必要な労働力が年間で分散します。忙しい時期と、そうではない時期があるので、通年雇用が難しい。その課題を解決するために、スポットで関われる人を集めたいと思っています。人材派遣のように、はじめましての人に来てもらうのではなく、普段から関わりがある人たちに、忙しい時期に来てもらえるような形です。

Q. ギルドのようなチームづくりですね。

A. そうです。製品の企画開発でも関わりを持ちながら、例えばフリーランスのデザイナーさんとか、いろいろなスキルを持った人たちとつながっていく。知っている人たちでチームを作って、必要なときに関われる仕組みがいい。

実は最近、拠点を取得できました。農産物の加工施設です。ここで人が集まれる場所はできるので、あとは実際にどう出会って、どう一緒に巻き込んでいくかですね。デザイナーや企画ができる人、加工や販売に関われる人。副業をしている人や、二拠点生活をしている人。定年後にスキルを活かしたい人も合うと思います。会社員をしていて、本当は自分の武器を活かしたいのに、活かしきれていない人もいると思います。

そういう人たちが集まれば、人材不足といわれる田舎でも可能性を見出すことができる、そう考えています。

 

編集後記

使われなくなった農地や林、受け継がれにくくなった暮らしの技術をどう使い直すか。
ソルガムも、キャンプサイトも、そば打ちやたけのこ収穫の体験も、別々の事業に見えて、須坂の暮らしを残すためにつながっている。大きく広げるのではなく、100年先まで続く形に少しずつ整えていく取り組みなのだと感じました。

関連リンク

We Can

ソルガムの栽培、加工、企画開発、流通・収穫物管理
未利用資源の活用
遊休農地・耕作放棄地の活用
無人型キャンプサイトの企画運営の知見
そば打ち、そばの種まき、たけのこ収穫などの地域体験型農業の企画
農産物加工施設の活用
大学・行政・民間企業との連携
地域資源を使った事業づくり

We Want

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雑穀や地域食材の商品開発に関心のある方
遊休農地・耕作放棄地活用に関心のある方
キャンプ・体験型観光で連携できる方
須坂の暮らしを体験する企画に関心のある方
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副業人材、二拠点生活者、定年後のスキル人材
農繁期に関われるフリーランス・スポット人材
地域でチームを作りたい方
農産物加工施設を活用したい方

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