娘のふるさとに残したいものを、商品にする。合同会社NORTH・北直樹さんの仕事

2026.07.15

合同会社 北直樹さん。

Relay From 糀屋本藤醸造舗の鈴木さんからご紹介いただいたのは、合同会社NORTHの北直樹さん。

北さんは、須坂市で「地域商社」として事業を行っています。農業生産者や地域事業者の営業代行から始まり、卸売、自社商品の企画・開発・販売、イベント事業まで、仕事の幅は少しずつ広がってきました。

出身は石川県。前職では営業職として各地で働き、コロナの時期に神奈川県から須坂市へ移住しました。地域おこし協力隊を経て、自分の会社として事業を進めています。

北さんが見ているのは、ただ地域の商品を売ることだけではありません。娘さんが生まれた須坂という場所に、これからも残ってほしい食文化を、商売としてどう形にするか。その問いが、北さんの仕事につながっています。

生産者の営業代行から始まった地域商社

Q. 合同会社NORTHでは、どんなお仕事をされているのでしょうか。

A. ひとことで言うと、地域商社です。もともとは、農業生産者さんの営業代行から始まりました。生産者の方は、生産に時間を使っているので、営業をする機会や時間がなかなかありません。自分は前職で営業をやっていたので、そこを手伝えるんじゃないかと思ったんです。

Q. 最初は営業代行だったんですね。

A. そうです。リンゴジュースなど、いろいろな商品を扱うようになって、活動を進める中で商品も増えていきました。そのうちに、百貨店さんから「卸売りをしてくれないか」という話もいただいて、卸売りも始まりました。そういう形で、地域商社のような仕事になっていきました。

今は、自社商品の企画・開発・販売もしています。特産品の商品開発もやっていますし、イベント事業もあります。たとえば、イオンの屋上で肉フェスタを主催したり、須坂市から委託を受けてイベント事業を行ったりもしています。

コロナの時期に、暮らす場所を考えた

Q. 須坂に来ることになったきっかけは何だったのでしょうか。

A. コロナの時期です。当時は神奈川県にいました。緊急事態宣言もそうですが、自分は石川県で育ったのでコンクリ―トジャングルの都市での生活に息苦しさを感じるようになりました。結婚した時期でもあって、もし子どもができたら今の場所よりも、土に触れられるような自然が近いところで育ってほしいなと思ったんです。

Q. 移住先として長野が候補にあったんですね。

A. はい。前職の営業で長野に来ることがあって、もともと長野は気に入っていました。妻は東京出身で、長野にはあまり来たことがなかったんですが、一緒に来てみたら気に入ってくれました。

善光寺や小布施にも行きましたし、そのとき須坂の宿に泊まったんです。そこがすごく良くて。移住しても、大きなギャップなく住めそうだなと思いました。ちょうどいい田舎感というか。それがきっかけで、須坂に決めました。

須坂で地域商社を営む北さんに、移住と起業の経緯を伺いました。

地域おこし協力隊から、自分の会社へ

Q. 起業という選択肢は、どのように出てきたのでしょうか。

A. 移住を決めて、会社を辞めることも決めました。そのときに、同じようにまた中小企業に入るのかと考えたんです。それなら自分で会社を興す方がいいんじゃないかと。当時、須坂市の地域おこし協力隊に起業モデルがありました。自分のスキルを活かしながら、起業を応援してもらえる形です。

自分にとって、移住と起業のタイミングが合ったんだと思います。

Q. 営業の経験を、地域で活かそうと思ったんですね。

A. そうですね。営業が苦手な人、営業する時間がない人に、生産やものづくりに集中してもらいたい。そこを自分が手伝えればいいなと思って、営業代行を始めました。そこから少しずつ、卸売り、自社商品、イベントと広がっていった感じです。

会社の看板がなくなったとき、信用を得る難しさを知った

Q. 自分の会社として動き始めて、大変だったことはありますか。

A. たくさんあります。移住も壁のひとつでしたし、最近で言えば事業の難しさです。協力隊を卒業して、自分の会社として動き出すと、ゼロからのスタートになります。

商流が最初からあるわけでもないですし、知られているわけでもない。自分が動いていないと、事業が止まってしまいます。営業もやって、商品づくりもやって、梱包もやって、経理もやる。営業畑だったので、仕事ってこんなにやることがあるんだと強く感じました。

Q. 会社員時代とは違う難しさがあったんですね。

A. 会社員時代は会社の看板がありました。その看板でいろいろな仕事をさせてもらっていたんです。でも、自分の会社になるとそうもいかない。信用を得る難しさがあります。小さい会社なので、相手にされないこともあります。会社員時代なら名刺1枚で入れた会社でも、今はメールを送っても返ってこないことがある。

そこは、しんどかったですね。

自分を責めるのではなく、仕組みにする

Q. その壁には、どう向き合っているのでしょうか。

A. 今も乗り越えている途中です。前は、問題が起きると自分を責めていました。自分の性格を変えなきゃいけない、行動を変えなきゃいけない、と考えていたんです。でも、それだけだとまた同じことになるとわかってきました。

Q. 今は考え方が変わってきたんですね。

A. そうですね。自分の欠点や課題を、仕組みにするようにしています。自分を分析して、「こういうパターンになると、こうなる」と予測できるようにする。そうすると、先回りして行動できます。

性格そのものを無理に変えるというより、性格が悪い方向に出ないような仕組みをつくる。今はそれをやっています。

Q. 経営者として見えるものも変わりましたか。

A. 会社自体は協力隊の頃から動かしていましたが、自分の会社としてやっていくようになると、見える世界が変わりました。キャッシュフローを気にして行動し始めると、人付き合いも変わってしまいます。協力隊というバックボーンがあったときは、一定の収入もありましたし、ある意味で余裕がありました。

でも、それがなくなると、家族もいる中で、日々の行動に責任が出てきます。もちろん、すべてキャッシュが重要だとは思っていません。でも、現実問題として、ないと困りますよね。最初はそこが苦しかったです。今は少しずつ割り切れるようになってきました。

糀屋本藤さんとつくった、自社商品の「信州百年味噌バウムクーヘン」。

営業だけではなく、自社商品を持つ

Q. 自社商品をつくるようになったのは、どんな理由からですか。

A. お蔭様で営業代行を進めて取り扱う商品も増えてはきました。ただ、いろいろな方の商品を扱っていると、急に在庫が切れることがあります。そうすると、自分の収入源も止まってしまいます。

それに、同じ商品を扱う他の事業者がいると結局は金額での評価になる。他社の見積もりより安くすることで選んでもらうとしても、利益は減りますし自分も消耗していきます。

Q. そこで、自社商品が必要だと思ったんですね。

A. きっかけの一つとして、そこで自社商品を企画しました。糀屋本藤さんとつくった「信州百年味噌バウムクーヘン 遥 -haruka- 」は、自社商品です。

ただ、これも新しい壁ではあります。大量に売れるわけではありません。でも、たとえすぐに大きく売れなくても、看板商品として、名刺代わりとして扱っていくことで、知ってもらうきっかけになります。この商品をツールとして使い続けながら、別の事業も大きくしていきたいと思っています。

娘のふるさとに、残ってほしいもの

Q. 商品づくりでは、どんなことを大切にされていますか。

A. 娘の存在は大きいです。自分には娘がいます。娘は須坂で生まれました。なので、須坂は娘のふるさとなんです。娘には、須坂で生まれてよかったと思ってほしい。そう考えたときに、自分に何ができるのかを考えるようになりました。

Q. それが商品づくりにもつながっているんですね。

A. そうですね。この先も、自分の商品が残る世界があれば、娘にも誇れると思ったんです。「お父さん、なんでこれをやったの」と聞かれたときに、しっかり説明できるかどうか。それは、自分にとって大事な基準です。

信州百年味噌バウムクーヘンも、商品名に「百年」と入れています。味噌の文化も、これから先に残ってほしいという気持ちがあります。もちろん、きれいごとばかりではありません。商売として成り立たせることも大事ですが、できるだけ添加物を使わず、味噌の味をしっかり出す。自分の娘が食べることを考えても、安心できるものにしたかったんです。

Q. 須坂の食文化を、どう見ていますか。

A. 自分は外から来た人間ですが、須坂に来てすごいと思ったのは食文化です。水もおいしい。味噌もすごい。果物もすごい。そういうものが、これから先もずっと残ってほしいと思っています。

自分が生まれた小学校がなくなるようなことがあれば、やっぱり寂しいと思います。ふるさとの風景や、原風景は、そのまま残っていてほしい。大きなことはできていないかもしれません。でも、小さいながらも、商売として残していくことをやっていきたいです。

「娘に説明できる商品かどうか」。北さんの商品づくりの基準が込められています。

編集後記

北さんの仕事は、営業力を使って地域の商品を売ることから始まっています。ただ、話を聞いていくと、それだけではありません。娘さんが生まれた須坂に、これからも残ってほしい食文化を、商売としてどう形にするか。そのために、自分の看板商品を持ち、信用を積み上げ、会社を経営し続けているのだと感じました。

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