売ったら終わりじゃない。やまろく機工・今井裕也が農家の一年に寄り添う理由
2026.05.18
Relay From 有限会社草間商事の小林洋貴さんからご紹介いただいたのは、有限会社やまろく機工の今井裕也さんです。草間商事とは、今井さんのお父様、あるいはおじい様の代からの付き合い。今井さんの生家が草間商事の隣にあり、子どもの頃には精米所のあたりで自転車の練習をしたこともあったそうです。家業として農機具の修理・販売を行いながら、自分たちでも田んぼを作り、刈り取った稲を草間商事に乾燥してもらったり、買い取ってもらったりしてきた。地域の農業の中で、自然とつながってきた関係です。
農家にとって、農機具は買って終わりのものではありません。
田植え、草刈り、消毒、収穫。一年の作業に合わせて使い続け、壊れれば修理し、部品が必要になれば手配する。機械が止まれば、作業そのものが止まってしまうこともあります。
中野市で農業機械の販売・修理を行う有限会社やまろく機工は、そうした農家の一年に付き合う会社です。今井裕也さんは、父と弟とともに農機具の販売修理を担いながら、自らも稲作やぶどう栽培に関わっています。
話している姿は、長髪にキャップという軽やかな見た目とは裏腹に、とても現実的。
先代から続く商習慣を尊重し、農家の作業暦を見ながら、「売ったら終わりではない」仕事に向き合っています。
農機具を売るだけでなく、その後まで面倒を見る。
地域に密着する機械屋の仕事について伺いました。
農機具の販売・修理と、噴霧器の組み立て機
Q. まず、現在のお仕事について教えてください。
A. 主には農業機械の販売と修理です。トラクターやスピードスプレーヤー、乗用草刈り機など、農家さんが使う機械を扱っています。メーカーから仕入れて販売するので、小売店に近い形ですね。
あとは、噴霧器の製造・組み立ても行っています。長野市の株式会社麻場さんから仕事をいただいて、下請けとして組み立てをしています。もともと父が農機具の修理販売で始めた会社です。そこからつながりができて、今の製造の仕事も回してもらえるようになりました。
農機具の修理販売は、父と自分と弟。噴霧器の製造・組み立ては、母や妹、パートさんたちが中心です。家族で役割を分けながらやっています。
前職から家業へ。働き方を考えるきっかけ
Q. 今のお仕事を始めた経緯を教えてください。
A. もともとは、株式会社麻場で働いていました。
短大を出たあと、進路がそこまではっきり決まっていたわけではなかったんです。商業科を出ていたんですが、当時は男で商業科というのも、なかなか仕事の選択肢が限られていて。縁があって、面接を受けに行って、そのまま働くことになりました。
そこで10年くらい勤めました。扱っていたのは、草刈り機やチェーンソーなど、小さめの農業資材や機械が中心でした。
その後、体調を崩した時期がありました。耳が聞こえなくなったり、平衡感覚がなくなったりして、しばらく寝たきりのような状態になったこともありました。
ちょうど結婚の時期でもありましたし、転勤や出張も重なって、家に帰る時間もなかなか取れない状況でした。
家族との生活を考えた時に、このままの働き方でいいのかという気持ちはありました。そんな中で、家業に入るという選択肢が現実的になっていきました。

取材に応じる今井さん。農家さんとの長い付き合いを、淡々と、丁寧に話してくれた。
急に自分の色を出すものではない
Q. 家業に入ってから、意識していたことはありますか?
A. 結局、客商売ですからね。自分の好き嫌いを出せばいいというものではないと思っています。
もともとの会社のカラーもあるし、父たちがやってきた商習慣もある。そこを急に自分の色に変えるのは、違うかなと思っていました。
農家さんとの付き合いも長いですし、昔からの関係の中で続いてきた仕事です。
いきなりガラッと変えるのではなく、まずはこれまでやってきたことをちゃんと見て、その上で必要なところを考えるようにしています。
農家の仕事は、カレンダー通りには動かない
Q. 農機具の修理・販売という仕事の難しさはどこにありますか?
A. 農家さんは、自然相手ですからね。
カレンダー通りに仕事が進むわけではありません。雨でも雪でも、作物は待ってくれない。植え付け、消毒、刈り取りまでの時期はだいたい決まっています。そこで機械が壊れると、すぐに何とかしてほしいとなる。
昔は、休みの日でも電話が来たり、呼ばれたりすることもありました。最近は、部品屋さんも休みだと修理できないことを分かってくれる方も増えてきましたが、それでも農家さんの作業の流れ自体は変わりません。
農家さんの一年に合わせて、こちらも動いている感じです。

農機具は、農家さんの一年の流れに合わせて動くもの。田植えの時期に機械が止まれば、作業そのものが止まってしまう。
売ったからには、面倒を見る
Q. 仕事の中で、大切にしていることは何ですか?
A. 売りっぱなしにはしたくないですね。
農機具は、売ったら終わりではありません。
使っているうちに壊れることもあるし、部品交換も必要になります。
だから、責任を取れないもの、よく分からないものは売りたくないです。
売ったからには、できる限り面倒を見る。
仕入先がなくならない限りは、修理や部品の手配も含めて対応したいと思っています。
この辺の農家さんは、畑の場所も、使っている機械も、だいたい分かっています。
だからこそ、その人に合ったものを提案できる部分もあります。
広く誰にでも売るというより、よく知っている人たちに、ちゃんと責任を持って対応する。そこがうちの仕事の仕方だと思います。
自分たちも農業をやる
Q. 今井さん自身も農業をされているんですよね。
A. はい。うちでも稲作をしていますし、ぶどうも作っています。
前の会社にいた時に、お客さんから「農業を知らない人に機械を売られても困る」と言われたことがあって。
確かにそうだなと思いました。
農家さんがどういう作業をしているのか、どんな時期に何が必要になるのか。そこを知らないと、ちゃんとした提案はできません。
最近は、県外から移住して農業を始める方もいます。
やる気はあっても、機械の知識はまだ十分ではないこともあります。
必要以上に高性能なものを買ってしまったり、用途に合わない機械を選んでしまったりすることもある。そういう時に、作業内容に合った機械を提案できればいいなと思っています。
高齢の農家さんには、なるべく安全で、操作がシンプルなものを提案することもあります。
性能が良いものでも、操作が難しすぎると混乱してしまうこともありますから。
結局、その人にとって使いやすいかどうかが大事だと思います。

農機具を扱う側も、自分たちで農業をする。畑に立つからこそ、使う人の感覚に近い提案ができる。
広げすぎると、手が回らない
Q. 会社としての今後については、どのように考えていますか?
A. 農家さんの代替わりがうまくいっているところはいいんですが、そうでないところもあります。そうなると、どうしてもお客さんの数は減っていきます。
だから、やる気のある農家さんや、新しく農業を始める人たちに、良い提案をしていければと思っています。
ただ、むやみに広げたいという感じではないです。
広げすぎると、修理が間に合わなくなることもあります。
実際、農機具の販売修理は自分と弟が中心ですし、自分たちの農業もあります。
深くはできますが、広くやるのは難しい。
畑の場所や使っている機械まで分かる範囲で、ちゃんと面倒を見る。
その範囲を大事にしていきたいです。
編集後記
今井さんの話を聞いていて印象的だったのは、「広げすぎない」という感覚でした。
農機具は、売れば終わりではありません。
壊れた時に直せるか、部品を手配できるか、農家さんの使い方まで分かっているか。
そう考えると、地域密着というのは、単に近くに店があるということではなく、相手の畑や機械や作業の流れまで知っていることなのだと思います。
長く付き合う仕事だからこそ、むやみに広げない。
その現実的な感覚が、やまろく機工らしさなのだと感じました。
We Can
やまろく機工では、農業機械の販売・修理を行っています。
トラクター、スピードスプレーヤー、乗用草刈り機など、農家さんが日常的に使う機械について、販売後の修理や部品手配まで対応しています。
自分たちでも稲作やぶどう栽培をしているため、作業内容や用途に合わせた提案ができることも強みです。
売りっぱなしではなく、長く使っていくところまで見ながら、農家さんの仕事を支えています。
We Want
地域で農業を続ける方、新しく農業を始める方とのつながりを大切にしていきたいです。
特に、機械選びや使い方に不安がある方に対して、用途に合った提案や、無理のない機械選びの相談ができればと考えています。
また、広く手を広げるというより、責任を持って面倒を見られる範囲で、長く付き合える関係をつくっていきたいです。
Next Relay
このバトンが、次へつながる。
北村農園 北村友三さん
取引先でもあり、同じ地域の仲間でもある方です。