目に見える速度で育つえのきを、毎日見る。チャーリーのえのき工場・春日光雪チャールズバーチさん
2026.09.24
Relay From きのこの森有限会社の霜鳥さんからご紹介いただいたのは、チャーリーのえのき工場株式会社の春日光雪チャールズバーチさん。
春日さんが主に担当しているのは、えのきの生育管理です。工場の中で育つえのきの状態を確認しながら、日々の作業や出荷量の調整にも関わっています。生産したえのきは、農協への出荷のほか、バイヤーや加工業者、仲卸などにも届けています。
えのきの仕事をしたいと思ったのは、小学生の頃から。親の背中を見ながら育ち、生き物そのものが好きだった春日さんにとって、きのこを育てる仕事は身近な存在でした。
「えのきは、目に見える速度で変わるんです」
毎日少しずつ姿を変えるえのきを見ながら、手洗い、清掃、異物混入対策といった小さな仕事を積み重ねる。2019年の台風19号では、工場が被災し、約90トンのきのこを廃棄しました。その経験を経て、春日さんが改めて感じたのは、自分たちだけで仕事を続けているわけではないということでした。
現在は、工場の機械化や、袋を開ければすぐ使えるえのきの商品化も考えています。えのきを育てる現場と、その先の食卓について伺いました。
毎日、目に見える速度で変わるえのきを育てる
Q. えのきの仕事を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
A. 本当に小さい頃からですね。小学生くらいのときから親の背中を見ていて、自分もこの仕事をやりたいと思っていました。
もともと生き物が好きなんです。きのこも、育てる仕事です。特にえのきは成長が速いので、毎日の変化を見るのがおもしろいです。植物みたいなものを想像するかもしれませんが、自分の感覚では、もう少し動物的な変化があります。
昨日見たものが、今日には違う。目に見える速度で成長していくんです。今は、生育を担当するのが自分の一番大きな役割です。それ以外にも工場内の作業をしたり、取引先ごとの出荷量を振り分けたりしています。
出荷は、半分くらいが農協で、残りはバイヤーさんや加工業者さん、仲卸さんなどです。分からないことがあれば、ほかのきのこ屋さんに聞くこともあります。毎日見ているからこそ、小さな変化に気づくことが大事だと思っています。

約90トンのえのきを廃棄した水害
Q. これまでで一番大変だったことは何ですか。
A. 2019年の台風19号です。今の建物ができて、1年半くらい経った頃でした。この工場を建てるときに法人化して、これから本調子に乗っていこうという時期でした。
きのこの工場は、新しく建ててすぐに全部が安定するわけではありません。最初の1年くらいは様子を見ながら調整して、冬も経験して、少しずつ状態を整えていくんですが、その最初の冬を迎える前の10月に、水害に遭いました。
水が入ると、まず電気が使えなくなりました。きのこの部屋は温度管理が必要なので、電気が止まれば部屋の温度が上がってしまいます。中にあったきのこは傷んでしまい、出荷できなくなりました。機械も水につきました。水だけではなくて、細かい砂や土砂が入ってくるので、洗えば終わりというわけではありません。モーターやチェーンなど、動く部分にも細かい砂が入って傷んでしまいます。
工場の中にあったきのこや、すでに製品になっていたものも含めて、廃棄した量は90トン近く。車もフォークリフトも水没していて。これから本格的に動かしていこうというところで、一度全部止まってしまったような状態でした。
自分たちだけでは戻せなかった
Q. そこから、どうやって再開したのでしょうか。
A. 自分たちだけでは、どうにもならなかったと思います。当時、自分自身もまだ若くて、知識も足りませんでした。社長が中心になって、交換できる機械は交換して、使えるものは使えるようにして、年内にはできるだけ出荷を再開しようと動きました。
時間が経ってしまうと、取引先も別のところから仕入れなければならなくなります。特に冬はきのこの需要が増える時期です。そこで商品がない状態が続けば、取引そのものがなくなってしまうかもしれない。だから、とにかく早く戻す必要がありました。
でも、規模が大きすぎて、自分たちだけではできませんでした。地元の方、ボランティアの方、消防、YEGの仲間など、本当にいろいろな方に助けてもらいました。特に大きかったのは、ダンプを持っている事業者の方たちです。
工場の中にある廃棄するきのこをダンプに積んで、処分場まで運んでもらいました。自分たちの車もフォークリフトも使えない状態だったので、その方たちがいなければ作業はもっと時間がかかっていたと思います。あのときは、お礼もきちんと言えないくらい、目の前のことで精いっぱいで。
災害って、本当に人ごとではないんだなと。そして、一人ではできない仕事なんだということも感じました。今も、分からないことがあれば仲間のきのこ屋さんに相談します。昔は「たくさん作った人が勝ち」というようなところもあったと思います。でも今は、菌の調子について情報を交換したり、バイヤーさんに聞いたりしながらやっています。一人で全部抱えてやっていくのは、難しいと思います。

毎日の小さなことを、ちゃんと続ける
Q. えのき作りで大切にしていることはありますか。
A. 食品なので、基本的なことを徹底することです。手洗いだったり、異物混入を防ぐことだったり、掃除だったり。きのこ自体が菌なので、雑菌が出ることもあります。
だから、こまめに掃除をする。毎日、ちょっとしたことをちゃんとやる。自分はそこを一番意識しています。何か特別なことを一度やればいいというものではありません。毎日状態を見て、掃除して、確認する。その積み重ねです。
えのきは成長が速いので、昨日と今日でも状態が変わります。だから毎日見る必要があります。食品としてきちんと届けるために、当たり前のことを毎日続けることが大事だと思っています。

つくる人にも、食べる人にも、手間の少ないえのきへ
Q. これからやっていきたいことはありますか。
A. 工場をもっと新しくして、機械化していきたいです。うちには40年くらい経っている建物もあります。古い施設には、古いなりのデメリットがあって。例えば断熱性能です。施設が新しくなれば、温度管理に使う電気代も変わってきます。機械化できるところを増やせば、人がやらなければならない作業も減らせますし、効率も上げられます。つくる側としては、そこを進めていきたいですね。
もう一つやりたいのが、えのきの商品自体をもっと使いやすくすることです。今スーパーに並んでいるえのきは、石づきがついた株の状態が多いですよね。家で袋を開けて、根元を切って、ほぐして使う。それを、最初からカットした状態で商品にできないかと思っています。カット野菜みたいに、袋を開けたらそのまま使える。包丁を使わなくても調理できる。
そういう商品ができれば、もっと手軽にえのきを食べてもらえると思います。夏は、どうしてもえのきの需要が落ちますから。生の状態だけではなく、保存できる形にもしていきたいです。例えばインスタント味噌汁のように、お湯を入れればすぐ食べられるものとか。
つくるのは簡単ではないと思います。でも、自分は「手軽さ」はすごく大事だと思っていて。工場では、人の手間を減らして安定してつくれるようにする。食卓では、包丁を使わず、すぐ食べられるようにする。
つくる側にも、食べる側にも、もっと使いやすいえのきの形を考えていきたいです。

編集後記
春日さんがえのきについて話すとき、「毎日変わる」という言葉が何度も出てきました。目に見える速度で育つから、毎日見る。食品だから、毎日掃除する。分からないことがあれば、周りの生産者に聞く。
2019年の水害では、工場も機械も止まり、約90トンのきのこを廃棄しました。そのときも、再開できた背景には、地域の事業者や仲間の具体的な助けがありました。
そして次に考えているのは、工場の機械化と、食卓での手間を減らす商品です。毎日の小さな変化を見る仕事から、その先でどう食べてもらうかまで。春日さんが考えるえのきの仕事は、少しずつ広がっています。
We Can
えのきの生産・出荷
農協、仲卸、加工業者等へのえのき供給
えのきの生育・栽培に関する情報交換
きのこ生産者同士の相談・連携
業務用えのきの供給相談
加工事業者向け原料供給の相談
We Want
工場では、老朽化した施設の更新や機械化を進め、より効率的に、安定してえのきを生産できる環境をつくっていきたいと考えています。
商品としては、石づきを切る必要がなく、袋を開けてすぐ使えるカットえのきのような形にも取り組みたいです。
また、夏場でも食べてもらいやすい保存加工や、インスタント食品などにも可能性を感じています。
えのきをより手軽に食べられる商品を一緒に考えてくれる食品加工事業者、機械化や省力化について相談できる事業者などとつながれたらと思っています。